第158話 アレックスの奮闘記①
チルチルと事前に申し合わせた日に間に合うよう、秘かに協力してくれる兵士を集め国境沿いの森に向かった。日を追うごとにトリアン王国の魔物は増え続け、最近は被害報告も多くあがってきていた。
カトリーヌ殿下も議会へ討伐の進言を繰り返してはいたが、一向に議会は兵を派遣しようとはしなかった。きっと王弟の息がかかっている議員が多いのだろう。今討伐されては困る、そういう空気が流れていた。
「ああ、もう、なんてことなの。本当にこの国はどうなってしまうのかしら…」
日々議会と対決するカトリーヌ殿下も流石に疲労の色が濃くなっている。俺は表立っては頼りない王配候補を演じているため、議会に言って意見することは控えていたので、少し申し訳ない気持ちになった。
「アレックス様は十分よくして下さっていますわ。本来なら我が国のことは自分たちで解決せねばならないのに、頼ってしまい申し訳ございません」
カトリーヌ殿下が頭を下げた。王族が他国の貴族に頭を下げるなど滅多にないことだ。それくらい申し訳ないと思っていることが伝わってくる。
「我が国のことでもあります。戦争になることだけは、絶対に避けなければならない。そのための協力は惜しみません」
「そう言っていただけると少し気が軽くなります。ですが、このままでは戦争へ傾きそうで…」
「そのために秘密裏に兵を集めているのです。護衛騎士のセドリック殿が上手く兵を引き込んでくれたので、助かっています。明日予定通り決行できそうです。その後のことはまた相談しましょう。陛下の呪いもミラが解呪に成功しました。2年間寝込まれていて、体が元に戻るには時間がかかりますが、希望は見えています。引き続き寝込んでいる演技を続けながら、来る時までは上手く騙しましょう」
「そうですわね。それにしてもあなたの周りには不思議な方が多いですわ。セイ様も若いのに、国政のことに詳しくて、宰相を当てにできない今、本当に助かっているのです」
お爺様のセイは、今は見た目25歳の温和な美青年だが、中身は80歳を越える元ミザリー前国王だ。いくら頼りなげでも、そこは腐っても国王だったお方だ。猫の手よりマシだろうと、政務を任せたのだが、いい意味で期待を裏切られたようだ。
当初、ミラお婆様がセイお爺様に女官を引き入れろと唆し、お爺様が渋々頑張った結果、一時期お爺様を中心にハーレム状態になってしまった。勿論味方が増えたのは良かったが、自分で言ったお婆様が不機嫌になってしまい、あの時はかなり焦った…それでお爺様に政務を押し付けたのだが、嬉しい誤算で現在一人寂しく政務に勤しんでもらっているのだ。女官とお婆様のいがみ合いなど、二度と仲裁したくない。
「アレックス殿、もうすぐ国境の森が見えます。この後はどういたしますか?」
「セドリック殿、森の魔物の数が多いので、結界が完成するまではここで待機しましょう。この人数で活発化している魔物に近づくのは危険です」
「わかりました。あそこに見える崖が国境です。確か石碑はあの崖の上にあります」
国境、石碑…あそこにもうすぐフィーネがやって来る。そう思ったら居ても立ってもいられなかった。
「先に私だけ森に行きます。突入の合図はあの石碑にします。あの石碑が光れば結界が完成します。そうすれば魔物は弱体化されるので、この兵力でも十分倒せます。ただし、無理な行動はしないでください。皆生きて帰ることが目標です」
「わかりました。お気をつけて」
協力を申し出てくれた兵士は30名ほどだった。秘密裏の行動のため死者を出した時の言い訳は出来ない。負傷ならお婆様に癒してもらえるが、死者は甦ることはない。討伐して、その後無事戻ることが必要だった。