第156話 石碑の森
翌朝、私たちはジョンソン辺境伯に案内されて、国境沿いにある森に向かっていた。今日が清浄魔法を石碑に込めると、アレックス様に約束した日なのだ。
『石碑の魔法陣に清浄魔法を込めるんやけど、範囲を拡大できるように多めに込めるで。わいが見た時は小さい魔物しかおらんかったから、集中して出来るはずや』
私たちとジョンソン辺境伯、さらに常駐している兵20名が同行してくれ、石碑の森の入り口に到着した。入口は確かに小型の可愛い魔物が多かった。特に人を襲う種類ではなく、比較的大人しい種類だ。だが、石碑がある森の奥に近づいていくと、予想以上に魔物がいた。中型以上の魔物は攻撃性が高く、油断すればかなりの被害が出るだろう。
『な、なんでや?めっちゃおるやん』
チルチルが焦った声で言った。前回見た時の倍以上の魔物がいるようだ。その魔物はトリアン王国の方角から来ているので、原因が何かトリアン王国の方にあるのかもしれない。私たちは、次々と魔物を倒しながら進んで行く。前回は戦闘に慣れてなかったが、今回は戦力になれそうだ。氷魔法を広範囲に展開して魔物を倒していく。
「聖女様、さすが魔法学園の生徒ですな。素晴らしいです」
ジョンソン辺境伯が感心したように褒めてくれた。少し調子に乗った私は、横から来る魔物に気づかずに進もうとして油断したところを襲われかけた。すかさずウィルが火魔法で応戦し、魔物を倒してくれた。
「気をつけろ。前ばかり見ていたら、危ないぞ!」
「あ、ありがとう。気をつけます」
体勢を立て直し、気を引き締めた。油断すれば大怪我、いや最悪死ぬ…戦闘経験がほぼないのに、ウィルは完全にここに順応しているようだ。頼もしい横顔がアレックス様と何故か重なった。
「あの丘の先が石碑です。そして、そのすぐ先は少し高い崖になっていますので落ちないように気をつけてください。その先の崖が国境です。おそらく国境を越えて魔物がこちらにやってきているようです。あちらの国はどうなっているのか…」
ジョンソン辺境伯は、心配そうに国境を見た。その先にアレックス様がいる…
『ぼさっとしてたらあかんで、気をつけや!』
チルチルの声に我に返った。丘の上に石碑が見えてきたが、その周りには魔物の群れが見える。石碑を守る様に牙をむきだし、グルグルと唸り声をあげる光景に思わず足がすくんだ。
「我々が突破口を開きます。どうぞ聖女様はそのまま進んでください!マックス、聖女様を!!」
「フィーネちゃん、僕について来て。大丈夫、必ず守るから!」
マックス様が手を取ってくれ、引っ張ってくれた。そのまま頑張って強張る足を動かした。ウィルはその隣を並走している。いつの間にか、手には炎をまとわせた剣が握られている。
「いつの間にそんな技を…」
「はは、すごいカッコいいだろ?威力もすごいんだぞ」
子供の様に瞳を輝かせて、ウィルがこちらを見たのがなんだか可愛く見えて、強張っていた気持ちが少し解れて、思わず笑ってしまった。
「そうね、カッコいいわ」
そんな私を見てウィルが急に赤くなった。炎が熱くてのぼせたのかと心配したが、ウィルはそのまま走って行って魔物を切り倒した。その後も次々と魔物を切り倒す。炎の剣、すごい威力だ。
『…青春やな』
「え?何か言った?」
『いや、なんもないで。ほら、フィーネ石碑の周りに氷魔法で防衛魔法を展開してから、清浄魔法やで』