第149話 sideウィリアムの葛藤
「アレックスがトリアン王国の王配になることになった。ウィリアム、フィーネはお前の婚約者になるから、そのつもりでいなさい」
父であるマルク-ル陛下から、開口一番そう言われ僕は言葉に詰まった。何とか気持ちを落ち着かせ、目の前の父王に質問した。
「何故ですか?確かに最近噂になっていましたが、まさか本当にカトリーヌ殿下の一目ぼれで、王配に望んだなんて言いませんよね」
「勿論違うね。ただ、王配になることは今のところ決定事項だ。王配になるか聖女フィーネを差し出すかと言われたら、アレックスの選択は決まっているだろう。それとフィーネが婚約者になるかはフィーネ次第かな。無理強いは出来るだけしたくない。お前が頑張って説得してくれると助かる」
「アレックス兄様はそれで納得しているのですか?事情は僕には教えてもらえないのですか?」
「そうだね、アレックスは聡い子だからそう判断しただけで、決して納得は出来ていないだろうね。お前が王配になれればよかったんだけど、お前は15歳だから流石に若すぎる。アレックスが王配にならないと戦争が起きる可能性が高いから人身御供的に差し出したんだけど、あの子が自分で解決出来れば…フィーネを奪いに必ず帰ってくるはずだよ」
「人身御供……戦争ですか…」
「ああ、あの子が戻る気満々なのは極秘事項だよ。先方の国は知らないしね…ウィリアムには言うが、他言無用だ。変に期待させても可哀そうだからフィーネにも言わないことだ。フィーネには君から婚約者になることを説明しなさい」
父王はそれだけ言って、行ってしまった。
僕はフィーネの元へ行って、アレックス兄様のことを伝えた。ショックを受けていたが、彼女は自分でアレックス兄様を待つと言った。お互いが信頼し合っているのだろう。その後フィーネは意欲的に学園に通っていた。だから、もう平気なのだと思っていた。
アーサー伯父上がフィーネに会いに来ていると聞いたのは、学園から戻ってすぐだった。昨日父王から、半年後にアレックス兄様の婚姻が決まったと聞いていたので、きっとその件だと思った。応接室に入ると既にアーサー伯父上は帰った後だった。
フィーネは椅子に座ったまま静かに泣いていた。ただ静かに瞳から涙を流していたのだ。彼女は平気ではなく、気丈に振舞っているだけだったのだ。僕は思わず彼女を抱きしめていた。
「泣いていいよ、でも一人で泣かないで欲しい」
しばらく泣いていたフィーネは、そのまま泣きつかれて眠ってしまったようだ。
「ア、レックス、さ、ま……」
微かに洩れた声は聞こえないふりをして、フィーネを抱き上げた。彼女の体は驚くほど軽かった。きっと最近あまり食欲がなかったのだろう。ちゃんと眠れていないのか、目の下には隈が見えた。
安全のため仕方ないとはいえ、急に家族と引き離され慣れない王宮で過ごすように言われたのだ。あの時の僕は、どれだけ彼女のことを思いやれただろうか…愛する人を奪われて、いきなり僕の婚約者になれだなんて…
「最低最悪の悪者だな…」
翌朝、普段通り制服に身を包んで、フィーネは僕の前に現れた。
「おはようございます、ウィリアム殿下。昨日は申し訳ございませんでした。部屋に運んで…あの」
「気にするな。君は軽すぎるから、もう少し食べた方がいいな…馬車が待っているから行くぞ」