第148話 待っています
応接室に入り椅子に座ると、紅茶が運ばれてきた。メイドが下がるとアーサー様は紅茶を飲んで、ふうっと息を吐いた。
「あらためてフィーネ、今回のことすまなかった」
アーサー様が頭を下げた。私は慌てて顔を上げてくれるように言った。
「フィーネは今回のこと、何と聞いているのか聞いていいかな」
「え、はい。護衛として迎えに行った時に、カトリーヌ殿下がアレックス様を気に入ったと…それで、トリアン王国の王配になるのだと、それを断ることは国として問題がある、下手をしたら戦争になるから、アレックス様は王配になることを承諾したのだと聞きました」
「なるほど…確かに嘘ではないな…ウィリアム殿下と婚約したのは、納得してのことかい?」
「いえ、納得はしていません。ただ安全上婚約者でいるのが条件だと…」
「条件?」
「はい、ウィリアム殿下と約束しました。私がアレックス様を待つと言ったら、期限をつけられました。私が3年生を卒業するまでに、アレックス様が戻ってきたら婚約解消してくれると言ってくれました」
「戻って来なかったら?」
「…結婚すると約束しました」
「なるほど、結構厳しい期限だが妥当だろうな…。それで、フィーネは息子を待つと?」
「はい、アレックス様が本当に別れたいなら、直接言いに来ると思うのです。だから待ちます。それが例え別れを告げるためでも…」
「そうか、だが、知らせが届いたのだ。半年後にカトリーヌ殿下との婚姻が決まったそうだ。それでもフィーネは愚息を待てるのかい?」
ズキンと胸が痛んだ。王配になるためにトリアン王国に向かったのだから、いずれそうなると分かっていたのに、実際にそれを聞いてしまえば心が張り裂けそうだった。私がアレックス様を待つのは本当に正しいことなのか、ただ現実が受け止められずに私が逃げているだけで、アレックス様がそれを迷惑に思っているのではないか…でも…
「…それでも、待ちたいです。アレックス様から別れを告げられるまで、待とうと思います」
「何も出来ず、君に辛い思いを強いてしまってすまない。ただ、息子はフィーネのことを心から愛していると、それだけは信じてあげて欲しい」
アーサー様はポンッと私の肩を叩いて、そのまま部屋を出ていった。
私は何も言えず、椅子に座っていた。暫くすると応接室の扉が開いて、ウィリアム殿下が入ってきた。
「フィーネ、アーサー伯父上と会ったと聞いて…フィーネ?」
ウィリアム殿下は私に近づくと、そのまま私を優しく抱きしめた。
「泣いていいよ、でも一人で泣かないで欲しい」
ウィリアム殿下の言葉で、初めて自分が泣いていると気づいた…心が痛い、今すぐアレックス様に会って抱きしめて欲しい、全部嘘で悪い夢だって言って欲しい、なのにあなたは手の届かないところに行ってしまった…
「ア、レックス、さ、ま……」
私はそのまま泣きつかれて、ウィリアム殿下の腕の中で眠ってしまったようだ。目覚めた時には自室で、窓の外が暗かった。侍女のミリアさんがあとで教えてくれたが、ベッドまでウィリアム殿下が運んでくれたそうだ。着替えはミリアさんがしてくれたようで、今夜はそのまま寝ていいと言われたので、用意された軽食を頂いてからそのまま就寝した。久しぶりに思いっきり泣いて、少しだけスッキリと眠れた。