第146話 アレックスの受難③
事前に相談したいことがあるとだけ記した手紙を送っていたため、陛下とはすぐに相談することが出来た。その後、カトリーヌ殿下も交えて会談を行った。
「なるほど、2年前からトリアン王は病になられていましたか…ですが、2年ほど前に一度トリアン王に会ったのですが、その時はお元気な様子でした」
「はい、マルク-ル陛下にお会いして帰国後、和平の話がうまくいったと議会に報告し、それから少したってからでした。夜に急に苦しみだして、そのまま寝込んでしまったのです。王宮の治癒魔法師が治療していますが、2年経った今でも起き上がることが出来ていません」
「急に、か。それは気になるな。ねえ、アレックス。知り合いの魔女がいただろう、相談してみるといいね」
陛下はさり気なく俺を見たが、知り合いの魔女とはお婆様のことだろう。確かに彼女なら何か出来るかもしれない。今は定期的に連絡をとっているが、そろそろ連絡が来る頃だった。
「わかりました、そちらは連絡が来次第対応いたします」
「それで、王配の件だが、さあ、どうしようか?ねえ、アレックス」
あくまで陛下は俺から言わせたいらしい…現状手が限られていた。今すぐに打てる手は、言いたくないが仕方ないだろう。
「私が…婚約破棄して、王配になるのがいいと思います…」
「そうだな、婚約破棄したフィーネはウィリアムの婚約者にしようか。そうすれば醜聞にはならないし、王家が責任を持って彼女を守ることが出来る」
「ぐっうううう…」
力が入り過ぎて変な声が漏れた。どうやらここに俺の味方はいないらしい。
「勿論、結婚するのは早くて1年半後の学園を卒業してからだよ。そうだな、それまでにこの件が解決すれば、フィーネは残念だけど君に返すよ。息子はフィーネが好きだから、このまま結婚させてあげたいけどね…さあ、どうかな?」
「善処いたします」
「そうか、難しい案件だからアレックスでもはっきり確約出来ないか。失敗すれば君はずっと王配のままだ。いつまでもフィーネを待たせるのは酷だよね。その時は腹をくくってトリアン王国で幸せになればいいか」
「……」
「それで、フィーネには自分で伝えるのかな?勿論事情は伏せて、婚約破棄のことだけだがね」
「いえ、彼女に嘘は言いたくありません。戻ってくる確約も出来ないので、そちらにお任せします。私が彼女の側にいない間しっかり守ってください。もし、彼女に何かあればその時は俺が敵になりますから…」
「はは、それは怖いね。勿論善処する。悪いね、いい叔父ではなくて。アーサーにも謝らないとな」
「臣下ですから、国のために尽くすのは当然です。どうぞ存分に命令してください」
「そうか、ではアレックス・アルダール。トリアン王国の王配になるよう命令する。これより先はトリアン王国の平定に尽力するように」
「はい、御心のままに。精一杯尽力いたしましょう」
結局、フィーネの顔を見れば決心が揺らぐと思って会えなかった。会えば、婚約破棄の言い訳をしたくなる。嘘をつけば、二度と会えないような気がした。更に、間諜がいることもわかったため、接触は避けた。
謁見の間でフィーネと一瞬目が合ったが、すぐに逸らした。不安そうな顔でこちらを見ていた。走って行って抱きしめたい気持ちを必死で押し込め、カトリーヌ殿下に微笑みかけた。舞踏会ではウィリアム殿下と踊るフィーネを心に焼き付けた。勿論気づかれないようにこっそりとだ。
愛している、フィーネ。必ず君の元へ帰って来るから、それまで……