第143話 訳が分かりません
ウィリアム殿下の言葉に耳を疑った。私はまだ寝ていて、これは夢…?それも悪夢だ。
「……」
「フィーネ、まだ眠いのか?また後で来よう…」
ウィリアム殿下がそのまま去ろうとしたので、私は慌てて殿下の袖を掴んで引き留めた。
「…はあっ、違います。あまりにも突拍子がなくて、意識が飛んだだけです。私が寝ている間に何があったんですか?どうして、いきなり婚約者候補になるんですか??」
「嫌か?僕の婚約者になるのは」
「そうではなくて!私は、アレックス様と婚約しています。それなのに…」
ウィリアム殿下はみるみる顔が曇っていった。その顔を見て私は嫌な予感がした。
「アレックス兄様は…カトリーヌ殿下と婚約した。昨日、トリアン王国へ向かって出立したよ…到着後結婚して王配になるそうだ。本当は僕が行けばよかったんだけど、歳の差があって、陛下の甥であるアレックス兄様が行くことになったと聞いた。独身の王族は僕とアレックス兄様しかいなかったから…」
茫然としてその場に崩れ落ちた。ウィリアム殿下が私を支えてソファーへ座らせてくれたが、その間も力が入らなかった。貴族には政略結婚があることは知っていた。でも、まさかアレックス様が自分を捨ててそれを選ぶとは思わなかった…
「アレックス様は何と言っていたんですか?私のこと、いらなかったの…」
「違う、兄様はお前のために…」
「私のため?どういう意味ですか」
「王女の目的は聖女フィーネを手に入れる事だったようだ…詳しくは言えないが、トリアン王国は今混乱しているんだ。君を利用したかったそうだ…でも、アレックス兄様はフィーネが危険な目に合うのは避けたかった。だから穏便な方法をとったんだよ」
「そんなこと、望んでないのに…それに、アレックス様は私に何も言ってないです。本当に別れると決めたのなら、きっと彼なら自分から私に伝えるはずです」
「どういうこと、まさか兄様が戻ってくると思っているのかい?」
「はい、きっと何とかして戻ってくるつもりなのだと思います。いえ、そう信じます」
ウィリアム殿下にそう言いながら、自分にそう言い聞かせているような気もした。でも長年アレックス様と過ごしてそう感じたのだ。本当に私を捨てるなら、きっとアレックス様は例え時間がなくても直接言いに来るはずだと。王都についた後、一度も会いに来なかったのも、会えば別れを告げなくてはならなくなるから、あえて会いに来なかったのだ。うん、そう思うことにしよう。半ばヤケクソ感は否めないが、そう思えば前を向けるような気がした。
「ということで、私はウィリアム殿下の婚約者にはなれません。そして、今日から学園に通いたいのでここから出してください!」
「かなり強引な思い込みだけど、フィーネの気持ちはわかった。ただ、期限は設けさせてもらうよ。いつまでも待つのは不毛だ。もし、アレックス兄様が3年生の卒業記念舞踏会までに戻らなかったら、僕と結婚すること。君の言うようにアレックス兄様が戻ってきたら、喜んで婚約破棄してあげる。それまでは、フィーネを守るためにも王族の婚約者でいる必要がある。そこは譲れない条件だよ」
「わかりました。事情が有るようなので、そこは妥協します」
「妥協…か。まあいい。では警備上、君には王宮住まいを求めること、立場は僕の婚約者となること、学園には通えるが護衛をつけることを納得してくれたら、今から学園に送っていくよ」
「はい、了承します。これからよろしくお願いします」