第138話 誤解です
進路希望用紙は提出期限ギリギリで提出した。結婚について話し合えていなかったが、結局自分の気持ちは誤魔化すことが出来なかった。このまま進学せずにアレックス様の元へ嫁いでも、それは私にとって幸せとは思えないのだ。
でも進学を許してもらって、卒業した後結婚して家に入る…それも違和感しかない。この気持ちをアレックス様に分かってもらいたい。あの短い時間ではそれを説明するには時間が足りなかった…でも、焦って発した言葉は確かに最悪だった…
「どうしようもないけど、あの時に時間を巻き戻したい…」
「まあまあ、とにかく今は授業を頑張りましょう。上位3分の1に入ってないと、進学するのも大変になるんだから。今は目も前の授業に集中よ!」
「うん、そうだね」
アレックス様が戻ってくるまで一か月、それまでに自分自身を見つめ直して、どうしたいのか決めようと思った。
アレックス様が王都から出立して10日が過ぎた頃から、王都である噂が広まりだした。隣国トリアン王国の王女が、魔法騎士団長に求婚したというものだった。アレックス団長の婚約は解消されて、王女と結婚するという噂も聞いた。勿論婚約破棄した覚えも、破棄された覚えもなかった。
だから私は噂を信じてはいなかった。しかし学園でも街でもみんなの視線が気になった。ずっとそういう目で見られることが嫌で、学園に通う以外の外出を控えた。そして学園でも出来るだけこっそり過ごした。
「おい、フィーネ。何でいつもここにいるんだ?」
「うわ、ノア先輩、いや、ノア先生…あの、ここが一番、人がいないからいいな~っと…」
学園で人がいないところといえば、ある程度限られてくる。薬草園及び温室の辺りは人が比較的少なかった。更に来年薬草科を専攻するにはもってこいの場所でもあった。単に隠れるだけではなく、一つでも多くの薬草を覚えようと努力していた。そう主張するとノア先生も、渋々納得してくれた。
「まあ、居辛い気持ちもわかるけど、いいのか?隠れていたって解決しないぞ」
「それもわかっているんですけど、結局アレックス様が戻るまで誰も真実を知らないわけで、解決の糸口が見えないというか、モヤモヤするんですよ…一応、でも私はアレックス様を信じているので、まあいいんです」
「そっか、偉いな…羨ましいよアレックス団長が。お前に信用されているんだから」
ノア先生はそう言って私の頭をぐりぐりと撫でた。
「一応、ノア先生のことも信用していますよ?」
「だからなんで、最後が疑問形になるんだよ…まあいいよ、ありがとう」
ノア先生は、嬉しそうに笑った。まさかその現場を他の生徒が見ていて、次の日に薬草園の禁断の恋と噂されるとは思わなかった。だって、私の隣にはリリーがいたのだ。別に二人でコソコソ会っていたわけではなかった。学園にもそう説明したし、リリーも証言した。数名の生徒もリリーと私とノア先生がいるところを見たと証言してくれたので、当たり前だが特にお咎めもなかった。
ただこういう噂は、暇な生徒があることないこと追加して広めやすいのか、アレックス様たちが王都に戻る頃になっても、まことしやかに噂されたままだった。
一か月を過ぎた頃、アレックス様たち魔法騎士団とトリアン王国の第一王女殿下一行が王都に着いたという知らせが王宮に入った。私はたまたま王妃様とお茶会をしていたので、そのまま出迎えに参加した。