第136話 アレックスの焦り
「お疲れ様です、団長。フィーネちゃんを送ってきたのですか?」
「ああ、マックス、任せっきりですまないな。そろそろ王妃様も元気になられたようなので、フィーネの王宮通いも終わると思うんだがな…」
「そうですか、それで団長はなんで落ち込んでいるんですか?」
マックスがにやにやしながらこちらを見てきた。一瞬氷漬けにしようか迷ったが、最近仕事を負担してもらっている負い目もあって、冷気を引っ込めた。
「落ち込んでなんかいない。ただ最近フィーネがよそよそしいような気がして…」
「ほう、そうですか。好きな子に何か隠し事でもされていると思っているのですね~はは~」
やはり一度氷漬けに…と思っていると、マックスが飛びのいて手を挙げた。
「はい、すみません。真剣に聞きます」
「別に聞いて欲しいわけではない。そう思っただけで、そうではないかもしれないし…もういい、仕事に戻るぞ。急ぐから先に行く」
マックスを無視して先を急いだ。ブレス侯爵の一件が落ち着いたとはいえ、仕事は山積していた。
フィーネも2年生になり、卒業まで1年を切った。卒業後すぐに結婚をする予定なら、そろそろその準備も必要だ。婚約はしているので、あとは結婚式を挙げればいいだけだ。そう、もうすぐなんだ。
「団長、東にあるジョンソン辺境伯から書簡が届いています」
「ジョンソン辺境伯か、私宛なのか?」
「はい、陛下にも届いているそうですが、アレックス団長宛てにもきていますね…」
「わかった、確認しよう」
書簡を受け取り、手紙を読んだ。内容は東の辺境伯に隣接するトリアン王国の第一王女が、遊学のため王宮を訪れる予定だが、魔物が出る地域があるため、王都まで護衛として魔法騎士団を派遣して欲しいというものだった。更に隣国の王女の警護なので、団長である私に警護の指揮をとって欲しいと書いてあった。
ジョンソン辺境伯の領地は、国でも一番遠い領地だった。転移するにしても余裕を持って10日はいるだろう。王都までは王女がいるのだから、更に余裕を持った日程を組まなくてはならない。
「一か月以上かかるかもしれないな…」
ただでさえ忙しい時期に、一か月以上王都を離れるとなると綿密な計画が必要だ。頭の中で動員できる騎士を計算した。マックスは王都組、私は出迎えに行くとして、果たして何人護衛に行けばいいんだ?
王女がジョンソン辺境伯の領地に到着するのが20日後、つまりあと10日で人員を選抜して、王都組と出迎え組に編成しなければならないのだ。
「急すぎる…なんだか嫌な予感しかしないな」
フィーネとゆっくり話がしたいと思っていた矢先に、護衛の話がやってきて、結局フィーネと会って話が出来たのは出発前日になってからだった。
学園から戻ってきたフィーネと9日ぶりに会った。明日は護衛のため辺境伯領へ向けて出発するのだ。
「フィーネ、元気だったか?会いに来られなくてすまなかった」
「元気でしたよ。忙しいのは仕方ないです。お仕事お疲れ様です」
「ありがとう。それで、話したいことがあると聞いたんだが?」
「はい、忙しいのにわざわざ来てもらってすいません。進路希望の用紙を出さないといけなくて、それで…アレックス様、私3年生に進学したいので、だから結婚は出来ません」