第130話 アレックスの思惑
俺はフィーネたちと別れて王宮にある監獄へ向かった。そのまま、生粋の魔女であるか確認をするため、ブレス侯爵夫人の独房へ入った。
夫人は独房の窓の近くに置いてある椅子に座っていた。ここに来てから取り乱すことなく、ずっと黙秘を通していた。
夫のアレン・ブレス侯爵は隣の独房に入っているが、減刑をほのめかしたらあっさりと自白しだした。外交官の要職についていた彼は、隣国の貴族と結託して関税をかけずに密輸を繰り返し、私腹を肥やしていた。その中には輸入禁止の薬物も含まれていた。
さらにルイス辺境伯領から隣国へ魔物が流出しているという隣国からの報告を、外交官として受けていたにも関わらず握りつぶしていた。彼が報告書を陛下に提出していれば、ルイス辺境伯領の状況はもう少し最悪ではない状態で介入出来ていたと思う。隣国との国境に位置するルイス辺境伯領に、兵士が向かい密輸が露見しては困るという浅慮からの行動だった。
独房に入ると椅子に座ったままのエメリン夫人が、俺をチラリと見てまた窓の外へ視線を戻した。俺はゆっくりと夫人に近づき声をかけた。手には魔力防止の手錠がついているので、魔法は使えないはずだ。
「こんにちは、そろそろ口を開いてはどうでしょう、生粋の魔女エメリン…」
それまで無表情だったエメリン夫人に、初めて動揺を見て取った俺は更に畳み掛けた。
「娘のミネルバ嬢も魔女ですね。無意識とはいえ聖女を害そうとした罪は重いですよ、魔女ならなおさらだ」
エメリン夫人は明らかに動揺した。ガタリと椅子から立ち上がり、縋る様に俺の方を見た。
「待って、待ってください。あの子は自分が魔女だなんて知りません。普通の女の子として育てました。ですから、魔女としての処分はしないでください…」
「それはこちらには関係のないことです。犯した罪は償わなければなりません。…ただ、あなたがしてきたことを話して下されば、こちらもそれなりの配慮はいたしましょう。少なくともミネルバ嬢を魔女として罰することはしないとお約束します」
娘のミネルバ嬢のことを心配する姿は、普通の母親だった。こちらの提案に強張っていた体から力を抜いたようだ。
「わかりましたわ。どこから話しましょうか…」
ブレス侯爵の罪は俺の中ではおまけの様なものだ。長い間俺の知りたかったことを、この魔女は知っているかもしれない。
「そうですね、時間はありますので、あなたが語りたいことをそのまま話していただいて構いませんよ」
「では話す条件としてお願いがあります。この話が終わったら娘と二人きりで会わせてください。あの子に事情を話さなくてはなりません」
「わかりました、お約束しましょう」
早く結論を知りたいと思いながらも、出来るだけ余裕のある態度でそう言った。まさか夫人が生い立ちから話し始めるとは想定外だったが、話し始めてしまったものはしょうがないと大人しく聞いていた。予想以上の内容に、夫人が話し終える頃には頭がついて行かず混乱していた…
「そう、あの時の依頼された子供はあなただったわね、アレックス魔法騎士団長…」
「……」
「まあ、こんなところね。きっと私は処刑されるのでしょう。火炙り以外の方法で…そうよね?」
「詳しいことは、言えませんが…おそらく…」