第129話 sideエメリン・ブレス⑤
イヴァンヌ様が亡くなったあと、口止め料としてかなりの金額をアラベラは提示してきた。私は魔女としていくつかの仕事をこなし、その金をアラベラに全て渡した。一時期私に対する変な噂が広まったが、慎重に行動して、証拠は残さなかった。平民なら、慎ましくしていれば一生食べていける額を渡したため、その後アラベラは私の前から姿を消していた。10年後、魔女の子供を懐妊するまでは…
懐妊したと気づいたころ、ふらりとアラベラが現れた。
「何の用?」
アラベラは嬉しそうに微笑んだ。
「懐妊したと聞いたの。おめでとう、私の孫ね。会う権利はあるでしょう?」
10年前とあまり変わらない姿で、私の腹を眺めている姿にぞっとした。このままでは生まれてくるこの子まで、この女の餌食になるのだと悟った…
「それで、会いに来たの?」
「…勿論それもあるのだけど、またお金を用意して欲しいのよ。丁度割のいい依頼が魔女の組合にき
ていてね。そのお金があれば、二度とお前の前には現れないよ。勿論その腹の子にも会わない」
そんな言葉信じられない、という言葉を飲み込んで私は話に乗ったフリをした。
「そう、でも私は今妊娠しているの。だから、その依頼は二人で受けましょう。大丈夫よ、ほとんどのことは私がするわ」
私は出来るだけ自然に、腹を撫でながらそう言った。アラベラもその言葉を信じたのか、すんなりと同意してくれた。私はこっそりと微笑んだ。
依頼は、アルダール公爵家の次男を殺害することだった。かなり高貴な方の依頼らしく、提示された金額は驚くほど多かった。
約束の時間、私はこっそりアラベラを侯爵邸の地下室へ招き入れた。床に描かれている血の魔法陣を見てアラベラが私に聞いた。
「何も殺害するのに、暗黒魔術を使わなくてもいいんじゃないの?黒魔術でも十分殺せるでしょう?」
「高貴な方の依頼でしょう?金額もかなりの額だし、確実に実行出来るようにね。今回成功をすれば一生遊んで暮らせる金が手に入るのだし、いいじゃない」
少々強引な言い訳だが、一生遊んで暮らせる金額と言われて、アラベラは気分を良くして、私の言葉を信じたようだ。
「それにしても、複雑な魔法陣だね、何を描いてあるんだい?」
アラベラが魔法陣を覗き込んだ瞬間、私は彼女の背中を思いっきり押した。覗き込もうとしていたアラベラはバランスを崩して魔法陣の中へ倒れ込んだ。私はすぐに呪文を詠唱しだした。
「な、何??ちょっと、え、まさかお前、私を…ぎゃ~~」
短い悲鳴と共にアラベラは消し飛んだ。赤く発光した魔法陣は空へ消えていった。
「この魔法陣の術式は、あなたの魔力を対価にして魔法陣が発動するようにしたのよ、って今さら言っても遅いわね…さようならアラベラお母さん…」
その後、依頼は失敗した。アルダール公爵の息子は生きていて、代わりに従妹のフィオリーナが亡くなったと報じられた新聞を読んだが、私の目的はあくまでアラベラの排除だったため、気にも留めなかった。
「そう、あの時の依頼された子供はあなただったわね、アレックス魔法騎士団長…」