第127話 sideエメリン・ブレス③
アラベラは可笑しそうに笑った。
「あら、いいの?あなたが魔女だって、あなたの養い親や、結婚するブレス侯爵に言っても。少しでいいのよ、生活に困っている母親に少しくらい娘として、お金を渡しても罰は当たらないわよ」
「そんな脅し卑怯だわ」
「魔女は脅すのよ、ずっとあなたの側にいてあげる」
魅惑的に微笑む魔女が悪魔に見えた。お金を渡す条件に、魔女としての魔術を教えることを約束させた。約束通り黒魔術、暗黒魔術をアラベラは私に教えた。魔女としての心得、魔女が入る組合にも連れて行かれた。ここで仕事をするのだと紹介され、見返りだと言って少なくない額の金を要求された。自分の使えるお金だけでは足りず、私は魔女の組合で紹介された仕事をこなし、その金をアラベラに渡した。
そうしている間に、私はブレス侯爵へ嫁いだ。使える資金が増えると、アラベラはさらに私にすり寄って来た。精神的に限界が近づいてきていた。
そんな時だ。夫になったアレン様が何の前触れもなく、赤ん坊を抱いて帰ってきたのだ。
「は?…今なんとおっしゃいましたか?」
自分で聞いたことが信じられず、もう一度アレン様に聞き返した。アレン様は気まずそうに目を逸らして、言い直した。
「だから…この子は私の息子だ。結婚前から付き合っているイヴァンヌが産んだ子だ。引き取ろうと思う」
「イヴァンヌ…様は、なんとおっしゃっているのですか?引き取るということは、まさか私が母親になるのですか?」
「ああ、そうだ。それでいい」
恋人、いや愛人がいるというのも初耳だった。15歳年の離れたアレン様とは、初対面から半年後に結婚した。婚約破棄された形となり、醜聞が広まる前に結婚させたいというガルシア伯爵家の希望を叶えた形だ。明らかに裏切りだと思ったが、アラベラの言葉を思い出して反発する気持ちを何とか抑え込んだ。
魔女は子供を産めない…それならば、この子は私にとって必要な子だった。
「イヴァンヌ様は、それで納得されているのですね。子供のことを私に任せて、実の子として育てさせていただけるのなら、この件了承いたします」
「そうか、ではそのように伝えよう…その子の名前は、オスカーだ」
伝える…つまり愛人との関係はそのまま続けるということか…そう聞きたかったが、これ以上食い下がれば離婚されかねないと思い、ぐっとこらえた。
「オスカーですね。わかりました。今日からこの子は私の息子です」
お乳の出ない私は、急いで乳母を雇いオスカーを我が子の様に可愛がった。アレン様は愛人のことを私に知られて開き直ったのか、月の半分をイヴァンヌ様の所で過ごすようになっていた。それでも可愛いオスカーがいて私は忙しいなりに、幸せに過ごしていた。
ところがオスカーが侯爵邸に来て半年が過ぎた頃、イヴァンヌ様が突然私を訪ねて来たのだ。
「その子は私の子です。返してください」
最近、アレン様はイヴァンヌ様と仲違いしたのか、ずっと屋敷で過ごしていた。きっとこのまま愛人関係が解消してしまっては、金銭が一銭も入ってこないと気づいたのだろう。アレン様と血のつながったオスカーを手元に置いて、養育費という名の資金援助を受け続けたいという魂胆が透けて見えた。
「オスカーは認知して、正式に我がブレス侯爵家の息子となっております。あなたは親権を放棄する書類にサインされました。応じる気はないのでお帰り下さい」