第126話 sideエメリン・ブレス②
「エメリン、すまない。マルク-ル殿下がクリスティを見染めたそうだ。他の婚約者候補も白紙となった。お前に非があったわけでは決してないよ。自慢の娘だ。それで、王家から正式にクリスティを婚約者にすると連絡があった。クリスティも王太子に惹かれているようだし、両想いならばこの申し出を断る理由がない。エメリンにはブレス侯爵との縁談を進めるが、それでいいだろうか?」
気の毒そうに父親に言われ、心が急激に冷えた。どこで私は間違えたのだろう…
「はい、お父様の思うようにしてください」
ホッとしたような父親の顔が目に映ったが、気づかないフリをしてそのまま部屋へ戻った。孤独感がさらに増した気がした。やはり自分は他人なのだ。そんな時に、彼女がやって来た。
侍女を連れて近くの公園に散策にやって来た時に、いきなり女性が近寄ってきたのだ。警戒した侍女が私を庇うように前に立ったが、女性が手を挙げた途端侍女は動かなくなってしまった。
「ああ、大丈夫よ。ちょっと動きを止めただけよ」
「魔法…?」
「そうね、魔女だからね。そして、私はあなたの母親よ」
女はニタリと嫌な笑いを浮かべた。一瞬何を言われたのか理解できなかった。母親…??
「まあ、感動で声も出ないの?あなたは生粋の魔女アラベラの娘よ。どう、すごいでしょ?」
「生粋の魔女?」
母親と名乗ったアラベラは、生粋の魔女、それから何故娘の私と離れたのかを話し始めた。魔女は子供を産めないが奇跡的に身籠ることがあるそうだ。生粋の魔女は魔女から生まれた女の子で、生まれながらに魔女の才能を受け継ぐそうだ。魔女には魔女の組合のようなものが在って、そこで仕事を探して金を稼ぐか、山間部でひっそりと暮らし、薬草などで生計を立てるようだ。
アラベラは殺しなども請け負う魔女だった。
「乳飲み子を抱えては仕事が出来なかった、だから孤児院に置いて来たのよ。あなたのことすっかり忘れていたんだけど、情報誌で王太子の婚約者候補にあなたの名前を見つけてね。様子を見ていたのよ」
「待って、その話が本当だとしたら、もしかして私には子供ができないの?」
「そうね、基本的に魔女に子供はできないわ。ただ、私の母も魔女なのよ、だからもしかしたら女の子が出来るかもしれないわね」
「でも、その子は魔女になるの…よね?」
「そうね、当然魔女ね。心当たりがないかしら?あなた、無意識に魔法を使っていたのよ。例えば、子供の出来なかった夫婦に子供が出来た理由とか」
「まさか、私が妹を欲しいと母にずっと言っていたから…」
「そうね、たぶんそのせいで妹が出来たのよ」
「クリスティが池に落ちた時、不自然だったのも…」
「そうね、きっと無意識に池に落としたのかもね」
「そのせいで、私はマルク-ル殿下を失ったの?…本気で好きだったのに…」
「それはお気の毒さま。全て無意識にあなたが使った魔法のせいね。それでここからが本題なんだけど、あなた私の弟子にならない?このまま無意識に使うのも危険だし、私はそろそろ引退を考えているから。あと、少しでいいからお金を融通してくれないかしら?暗黒魔術を使いすぎて、今は魔力も押さえないといけなくなって仕事が出来ないのよ。先立つものが無いのは困るのよ~」
「どうして、あなたなんかに…」