第125話 sideエメリン・ブレス①
「ブレス侯爵、夫人及び娘ミネルバ、あなた方を捕縛する。抵抗せずに投降してください。抵抗すれば攻撃させていただきます」
王国の魔法騎士団が一斉にブレス侯爵邸に押し寄せたのは、朝の早い時間だった。前日に夜会に参加していたため、夫も娘もまだ就寝していた。私は辛うじて起きだし、着替えを済ませていたが、油断していて抵抗も出来なかった。
魔法騎士団は拘束魔法で私たちを捕縛すると、罪状を読み上げた。
「ブレス侯爵、外交官の立場を悪用し、隣国の貴族と結託し密輸品を横領した罪、及びルイス辺境伯領での魔物発生報告を隣国から受けながら隠ぺいしていた容疑がかかっています。同じく夫人にも協力していた容疑がかかっています。娘のミネルバ嬢には聖女フィーネ様誘拐の首謀及び殺人未遂容疑でご同行願います」
魔法騎士団の言ったことは本当だった。ただ、娘のことに関しては予想もしておらず、愕然としていた。娘は魔法騎士団に対して悪くないと叫んでいたが、もし事実なら罪は免れないだろう…
「どうしてこんなことに…」
呟いた言葉に自分で笑ってしまった。
自分が養子だと知ったのは、私が8歳の時だった。3歳下の妹クリスティとはあまり似ていないと思っていたが、まさか自分だけ血がつながっていないとは思ってもいなかった。きっかけは遊びに来ていた親戚の人たちの会話を、親戚の子供とかくれんぼして遊んでいた時に、偶然聞いてしまったのだ。
すぐに両親に確認した。ドキドキしながら両親からの返事を待った、否定されることを期待していたのだ。
「ええ、事実よ。あなたは1歳の時に孤児院から来たのよ。私たちは長く子供に恵まれなくて、あなたを引き取ったの。でも、奇跡的にクリスティを授かった…でも変わらずあなたも愛しているわ。今までと同じように家族だと思って欲しいわ」
母親にそう言われ、ぎこちなく頷いた。実際家族はそれからも変わらずに愛してくれていたと思う。ただ、そうしていながらも孤独感を感じる時があった。
16歳の時に、王太子のマルク-ル殿下の婚約者候補になった。ガルシア伯爵家の娘を婚約者候補にと王家より打診があったのだ。実子のクリスティはまだ13歳と幼い。跡取りの問題もあり、父は私を婚約者候補にしてくれた。
私が王太子妃になる、夢のようだった。3人の婚約者候補と一緒に王妃教育も受けた。厳しい教育が1年続き、必死で努力した私は一番婚約者に相応しいと評価もされていた。そんな時悲劇が起こった。
非公式に王太子マルク-ル殿下が、お茶をしにガルシア伯爵邸を訪れていた。他の候補の家にも訪れる予定で、一番目が私だった。朝から念入りに準備をして、一番お気に入りのドレスを着た。素晴らしい庭の一角にテーブルとパラソルを用意して、マルク-ル殿下との会話も弾んでいたと思う。
殿下の滞在時間がそろそろ終わりを迎える頃、私の視界にクリスティが映った。丁度池のほとりを歩いて、こちらに挨拶に来ようとしていたのだ。私はとっさに来ないでと心で念じていた。14歳になったクリスティは可憐な少女に成長していた。同じような金色の髪と緑の瞳なのに、私とは違う魅力的な少女だった。そんな妹とマルク-ル殿下を会わせたくなかった…
次の瞬間、キャっと悲鳴が上がり、クリスティが何かに引きずられるように池の中に落ちた。状況がわからないまま、溺れるクリスティを茫然と見ていると、いつの間にかマルク-ル殿下が池に飛び込み、クリスティを助け出していた。二人は池から上がると、時を忘れたようにお互いをじっと見つめていた。
私の心の中で警鐘が鳴り続けていた。