第123話 エメリン様の動機はなんでしょう
「なるほど、ミネルバ嬢が生粋の魔女だという仮説、更にエメリン侯爵夫人も魔女…か。確かにそう考えればつじつまが合うことも多いが…どこからそんな情報がまわってくるんだ?」
「まあ、いろいろな奴がいますから、ガセネタも多いんですよ。今回は我が情報部のスキャンダル担当も信頼できるのではと太鼓判を押していますので、かなり信憑性が高いと思います」
男女のスキャンダルが大好きなモリス先輩の顔が思い浮かんだが、思考から追い出した。きっと彼にかかれば私とアレックス様のことすら、ネタにされかねない…
「では、仮に生粋の魔女だと仮定して、彼女たちの目的はなんなんだ?」
「そうですね、元来魔女とは自由な気質の者が多いと聞きます。ミネルバ様は遅くに出来た娘で、ブレス侯爵もかなり甘やかして育てたと聞きます。彼女の行動に、特に意味はないのではないでしょうか?」
「意味はない…」
「きっと気に入らないフィーネ嬢を、誰かに害して欲しかった、くらいの感覚ですよ。そこにたまたま聖女に心酔する男がいたから、そそのかしてみた…そんな感じです」
「そんな簡単でいいのか…」
「真相なんてものは、蓋を開けてみれば単純なことが多いんですよ。特に女性の嫉妬に理由なんて求めても無駄です。まあ、あくまで仮説ですが」
「そうか、とりあえずその線でも探ってみよう。娘のミネルバは牢獄で癇癪を起して話にならないし、妻のエメリンはずっと黙秘を貫いている…魔女ならば監視の目を増やさねば…」
「ちなみに、エメリン夫人の動機も仮説があるのか?」
アレックス様が期待するようにマルコ先輩を見た。マルコ先輩はさらに顔を引きつらせる結果となった。
「いいんですか?たかが学生の仮説ですよ…」
「いや、学生などと侮ってはいないよ。君たちの情報は先の辺境伯領を救ったんだ。それに君たちはより正確な情報しか発信していない。十分信頼に値しているよ」
マルコ先輩が虚を突かれたようにアレックス様を見て、そしてみるみる真っ赤になった。照れくさそうに頭をかいて、息を吐きだすと、笑顔を見せた。
「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう精進します。今知っていることをお伝えしましょう」
そして、先ほど私に言った話の続きをした。エメリン様は養女で、3歳下にクリスティ様ができると思わずに引き取られ、その後も養女として育った。一時期は現王マルク-ル陛下が王太子であった時に妃候補の一人になっていた。家格は伯爵家だったが、ガルシア伯爵家は古くからある名門貴族だったためだ。
クリスティ様も姉が婚約候補になったことを喜んでいたが、非公式に王太子がガルシア伯爵家を訪れた時に、悲劇的事件が起こった。庭でお茶を飲んでいた王太子の元へクリスティ様が通りかかった時に、クリスティ様が足を滑らせ池に落ちてしまったのだ。溺れていたクリスティ様を王太子のマルク-ル様が助けに入り、クリスティ様は事なきを得た。
そこまでなら美談で済んだのだが、マルク-ル殿下がその時に妹のクリスティ様を見染めてしまった。歳が離れているからとエメリン様を候補にしていたが、王太子が希望されるなら、とガルシア伯爵も当時14歳の実子クリスティ様を妃候補にすることを了承してしまったのだ。
そしてエメリン様は、急遽ブレス侯爵家へ嫁ぐことが決まり、行った途端に愛人の産んだ赤ん坊を押し付けられたのだ。当時はゴシップ紙が騒ぎ立てたらしい。
「そうか、妃候補が変更になったのは知っていたが、かなり前でそんなに詳しく経緯は知らなかった…確かに陛下は王妃様を溺愛しているが、そうか、婚約者を…」