第122話 魔女の子供
「聞いたことがあります。魔女から生まれた女の子が生粋の魔女と言われると。本当に珍しいケースだと」
「そうそう、よく知っているね。どうやらミネルバ嬢はその生粋の魔女のようだ」
「え、でもそうなると、母親のエメリン様が魔女ということに?」
「ああ、そうなるね。どうやらエメリン様は元々ガルシア伯爵家の養女で、長く子供が出来なかったガルシア伯爵が、施設から養子として迎えた子供だったらしい。髪も目も夫婦に似た色の子供だったから、あまり知られてないんだけど、夫婦はその3年後に奇跡的にクリスティ様を授かったようだ。それでもガルシア伯爵は変わらずに養女のエメリン様を娘として育てたそうだけど…」
「もしかしてエメリン様も生粋の魔女だったのですか?」
「多分そうなんじゃないかな?一般的な魔女は魔女の儀式によって魔女になるけど、生粋の魔女は生まれた時から魔女なんだろ?」
「でも、エメリン様は男児を産んでいますよね?今回捕縛されていませんが、自宅監禁されていると情報誌に書いてありました」
「その息子はどうやらブレス侯爵の愛人の子を認知したらしい。結婚してすぐに赤ん坊が産まれたんだ、計算的に合わないからね。まあ、結婚した途端に夫の不貞が露わになったんだから最悪だよな」
「それは…かなり嫌ですね。私なら即離婚しますね」
一瞬アレックス様が赤ん坊を抱いて立っているのを想像して、ぞっと背筋が寒くなった…
「はは、まあそうだね。でもエメリン様は養女だ。立場的に離婚なんて言い出せなかったんだと思うよ。そのあとすぐに愛人が自殺したらしくて、赤ん坊はブレス侯爵家に完全に引き取られて育てられたんだけど…」
「自殺、ですか?」
「そう、当時の噂では呪い殺されたなんてことを言われていたな…川に飛び込んだそうなんだけど、死ぬ間際に舌に黒い魔法陣があったって証言した人がいたんだよ」
「舌に、黒い魔法陣…」
ドクンっと心臓が嫌な音をたてた。魂が震えるような感覚に、ぎゅっと胸の辺りを握りしめた。
「どうした?顔が真っ青だけど…」
「あ、いえ、大丈夫…」
慌てて顔に笑顔を張りつけようとしたら、後ろから肩を抱き寄せられた。マルコ先輩が驚いた顔でこちらを見ている。
「フィーネ、大丈夫か?」
優しい声に、心臓がトクンと音をたてた。冷えた魂が温度を取り戻したように、強張っていた体から力が抜けた。
「アレックス様?」
「ああ、良かった、顔色が戻ったね。遅くなってすまなかった。護衛から、マルコ君が来ていると連絡が入って、急いで来たんだが…」
「連絡が…こわっ」
マルコ先輩が思わず呟いた声がここまで聞こえた。過保護すぎてすみません。そっと心の中で謝ってしまった。
「情報部は本当に侮れないな。どこまで聞いてしまったかな?」
「あの、聞いたような、聞いてないような…それ以外の情報が多かったので…」
「ほう、それは興味深いね。ぜひそちらの情報を提供してもらおうか?」
アレックス様がいい笑顔でマルコ先輩を見た。マルコ先輩の顔がみるみる引きつっていった。