第120話 王都に帰ってきました
「ローゼー子爵、夫人、ご協力感謝いたします。王都の方も間もなく落ち着く予定です。安全な領地でフィーネを守ることが出来ました。本当にありがとうございました」
「いえ、協力するのは当然です。それに、フィーはリリーの大切な友人ですし、我々も彼女と過ごせて楽しかった。また落ち着いたら遊びに来てください。今回のことが早く解決することを祈っています」
アレックス様が私を家まで転移魔法で連れて帰ることになり、護衛の二人にもお礼を言って別れた。リリーは7日後の新学期までに王都のタウンハウスへ戻るようだ。
ローゼー子爵家の皆さんに見送られ、転移したのは家の庭だった。一か月近く家族と離れたのは初めてだった。リリーの領地はまだ肌寒い日もあったが、王都はもう春の陽気を感じることが出来た。庭の畑にはキャベツやジャガイモ、豆などの葉が青々と育っていた。
「帰ってきたんだ…」
「ああ、おかえりフィーネ。もう少しで片付くから、待っていて欲しい。護衛を家にも配置している。まだ外出を許可出来なくてすまない…」
「いえ、私何もお手伝い出来なくて…家の中でじっとすることぐらい、ぜんぜん平気です!」
「そうか、ありがとう。新学期が始まるまでには終わらせる。それまで気をつけて欲しいんだ。君を狙ってくることもあるからね」
「はい、わかりました」
母とロン、アレックス様と一緒にお昼ご飯を食べた後、お茶をしながらローゼー子爵領での生活を話した。お土産も渡した。ロンには魔石で動く人形、母には特産の果物ジャムとスカーフ、父には魔石のお守り、そしてアレックス様にはお守りの腕輪だ。腕輪の装飾には青い魔石とピンクの魔石がついている。
リリーの領地は魔石が多く採れるようで、お土産店には魔石を使った様々な物が売られていた。お守りも色々な種類が売られ、神殿で加護の祈りを捧げられたそれは、神殿の主な収入源になっているらしい。
「アレックス様がくれた指輪に比べたら、大した防御にはなりませんが、私の加護も込めておきました」
「ありがとう、これを見たらフィーネが側にいてくれると思うよ」
腕輪にそっと唇を寄せ、ちゅっとキスをした。色気がすごい…そういえば、この指輪をもらった時に似たようなセリフを言った覚えがあったが、あの時のアレックス様の気持ちが少しだけ分かった気がした。
『なんかあざといやろ…アレックスがやったら』
「鳥、うるさいぞ」
アレックス様は名残惜しそうに王宮へ戻っていった。さすがに今日一日マックス様に仕事を押し付けるのは気が引けるようようだ。
部屋の窓から外を見ると、門に2名裏門に1名、その他にも隠れるように護衛の人が立っていた。物々しい雰囲気にドキリとしたが、あと数日で解決すると言っていたアレックス様の言葉を信じて、心を落ち着けた。
3日後、王都の街に衝撃が走った。王妃の姉が嫁いだブレス侯爵が捕縛されたのだ。妻のエメリン夫人、娘のミネルバも一緒に連行されたと報じられた。唯一息子のオリバー様だけは関連を見つけられず、監視をつけられ自宅に監禁されているそうだ。王都の情報誌は一斉にこのことを報じたが、詳しい理由などは載せず、憶測のみが紙面を賑わしていた。
アレックス様も忙しいのか、あれから一度も会えず、今日も自宅に引き籠り状態で、暇すぎて母が買ってきてくれた情報誌を片っ端から読んでいた。
「う~ん、どれも違うことが書かれていて、どれも結局憶測なんだよね…」