第11話 聖女というのは内緒です
「サミエル大神官長、今頭に浮かんだ言葉は消去していただこう。決してそのような想いで婚約したのではない」
「……失礼、そうですね。何か事情があってのことだと思います」
「あの、聖女が問題になるなら、どうしたらいいですか?魔法学園に入学するのが夢で、出来れば通いたいのですが……諦めた方がいいですか?」
まさか第三王子とどうにかなるとは思ってないけど、ややこしいことになって、好きだと想いが通じ合ったアレックス様と引き離されるようなことにはなりたくなかった。
「そうですね、私の知り合いが魔法学園で魔力の属性を判断しているので、少し融通をきかせてもらいましょうか?精霊魔法は本当に希少なので、学生は気づきませんよ。光属性だと判断してもらうよう伝えておきます。当分の間、聖女が現れたことは秘密にしておきましょう」
「……サミエル大神官長、やけに協力的だな。神殿としては聖女がいた方がいいのではないのか?」
「そうですね、考え方の違いでしょうか。聖女はいい宣伝になりますが、使い勝手がいいとは限らないのですよ。今は神殿も安定しています。大きすぎる看板は邪魔になることも、……おっと、喋り過ぎましたか?」
「いや、それを聞いて安心した。まあ、もし神殿が欲しがっても渡さないがな」
「まあ、そうでしょうね。お互い利害が一致している間は、協力を惜しみませんよ。さて、そろそろ本題に入りましょうか。魂を補うために必要なのは、〈乙女の涙〉ですが紛失中。ここまでは先ほど言いました。根本的な解決は欠けた魂を元に戻すことですね。術式を用いて戻せるのか、違う方法がいいのか、症例がないので確約できませんが、少し時間を頂ければ調べさせていただきます」
「そうか、それは助かる。こちらで〈乙女の涙〉の行方は探してみる」
「それと……」
サミエル大神官長様は、アレックス様の胸の前に手を当てた。
「欠片は、アレックス様の中にある?ということですね。これ以上眩暈が酷くなるようでしたら、なるべく近くに二人がいるようにすることをお勧めします。近くにいる方が欠けた魂が疲弊しないと思います。今も引き合っています。つまりこのまま引き合いに疲れてしまったら、終わるということです」
「……おわる?」
アレックス様が聞き返した。
「そうですね。命が終わります」
「え……」
「は?命が終わるだと?」
「まあ、これも仮説ですが、見たところ魂が疲弊しているのは事実です」
「わかった、出来るだけそうしよう。解決方法も急いで欲しい」
「はい、急ぎましょう。フィーネ様も何か変化があれば、いつでもご相談ください」
「はい……ありがとうございます」
「フィーネ……」
そのあと、アレックス様に付き添われて、家まで送ってもらったが、何を話したかあまり覚えてなかった。まさか、死ぬかもしれないなんて、そんな事言われると思ってなかったのだ。
夜になって、入浴を済ましてぼんやりと部屋のソファーに座っていると、ドアがノックされた。
「入っていいかい?フィーネ」
「あ、アレックス様?どうして?」
ラフな格好をしたアレックス様が、扉の外に立っていた。
「出来るだけ一緒にいた方がいいと言われたからね。昼間は仕事で無理だから、夜は一緒にいよう」