第118話 魔王の特訓です
「氷魔法、アレックス様の得意な魔法ですね」
「ええ、あの方はレベルが高すぎてお手本にもなりませんが、基本は同じですね」
「挑戦してみたいです!」
「わかりました。ではまずは水魔法、風魔法を習得してください。それが出来た後に挑戦しましょう」
アレックス様とお揃いの魔法だと思うと、俄然やる気が出てきた。自分で自分を守る、この時私たちはもっと簡単に考えていたのだ、本格的に修業が始まるまでは…
「フィーネ、大丈夫?なんだかヨレヨレになっているわよ」
「う、うん、大丈夫…ちょっと集中が切れた、だけだよ…」
マーティン様とハリス様は、見た目は優しいお兄さんだった。甘く考えていたと言えばそうだ。彼らは魔法騎士団の騎士なのだ。それもアレックス様が信頼して護衛を任せられるのだから、エリートなのだろう。つまり、小娘たちの訓練だと言っても、全力で鍛える気満々だったのだ…訓練を初めて5日目…二人が魔王に見えだした今日この頃。
「はい、休憩は終わりですよ。リリアンナ嬢は土魔法の防御が出来ていますので、火魔法の攻撃に移ります。ハリスに習ってください。フィーネ様は水魔法は出来ていますが、風魔法が全然だめです。集中力を高めるために、全身を風魔法で覆う練習をして下さい。とりあえず、魔力が無くなる直前まで続けてください。枯渇すると死んじゃいますからね。気をつけてください」
笑顔でハードな要求をしてくるマーティン様が怖い…でも、これをクリアしないと氷魔法までたどり着けない…私はぐっと力を入れて、風魔法を全身にまとわせた。マーティン様たちが次の騎士の方と交代するまであと3日、なんとか氷魔法までたどり着きたい…
訓練漬けの毎日はあっという間に過ぎた。気がつけば護衛交代の日になっていたのだ。昨日の晩に眠い目をこすってアレックス様に手紙を書いて、マーティン様に託した。勿論訓練のことは伏せて、リリーと楽しく過ごしていると書いてある。
「では、私たちはこれで帰ります。お二人ともよく頑張りました。私は訓練には手を抜けない質で、少々無理をさせてしまったかもしれないですが、よくついてきました」
「ここまで出来るようになったのは、お二人のお陰です。ありがとうございました」
リリーと私は二人に心を込めてお礼を言った。訓練の魔王は怖かったが、その分確実に私たちを成長させてくれた。本当に感謝しかない。
「無理をしない程度に、訓練は続けてください。後任の騎士にも訓練を手伝うよう申し送りしています。くれぐれも危ないことはしないでくださいよ」
「はい、王都に戻るころには氷魔法を完璧に使いこなしたいです」
「はは、無理はしないでくださいね。私が団長に怒られますから…」
笑顔が引きつって見えたが、後任の護衛の人を紹介してもらい、二人は帰っていった。ありがたいことに後任の護衛の方からも、訓練をつけてもらえるらしい。
「後任のアディとヘインズです。微力ながら訓練のお手伝いをさせていただきます。先任の二人は厳しくなかったですか?僕たちは彼らの厳しさには負けますが、精一杯やらせていただきます」
「あ、そんな、精一杯でなくても…いいです。はい、お願いいたします」
リリーと二人で遠慮したつもりだったが、魔王の同僚は魔王だったようで、彼らが帰るころにはリリーの防御魔法も私の氷魔法もかなりのレベルに到達することが出来た。騎士団には訓練の魔王しかいないらしい。