第117話 自分で自分を守りたい
皆で協力した結果、5種類の薬草が採れた。これを標本と粉末状にして学園に提出する。2年の魔法薬の授業で実際にこの薬草を使って魔法薬を作るのだ。
「ありがとうございました。マーティン様とハリス様のお陰で沢山採取できました。さすが先輩です」
「お役に立てて良かったです。今でも薬草の知識は役に立っていますよ。騎士団でも簡単な薬草は使うので」
「そうですか…あの、お願いがあるのですが…可能であれば、私に護身術を教えてくれませんか?」
「護身術ですか?」
「はい、今回攫われて自分が無力だと実感しました。勿論騎士様のように戦えるとは思っていませんが、何か抗う方法を覚えておきたいんです。お願いします!」
護衛の二人は顔を見合わせて、難しい顔をした。
「お気持ちは理解できますが、団長が反対されるのではないでしょうか?あの方はフィーネ様を絶対に守られます。あなたが危ないことをすることは望まれないでしょう」
確かにそうだと思った。でも、私は誰かに守られるだけでいいのか、ずっと疑問だった。自分自身のことだ、甘やかされて何もできないことは違う気がする…
「私の人生です。私が出来る事は自分でしたいんです。守ってもらうだけでいいなんて、それこそお人形です。そんなの嫌です」
「なるほど、では、ここにいる間だけ、団長に内緒で教えましょう」
「ですが、一つだけ言わせていただきます。自分は辺境伯領で前線にいました。あなたを襲った男は後方部隊で魔物を見た時点で逃げ出した奴です。戦闘訓練を受けていた魔法騎士団でも逃げ出したくなるような状況で、15歳のあなたは逃げ出さず、命を削って我々を救ってくれました。あなたは守られるだけの人間ではないです。ちゃんと守る勇気を持っておられますよ」
二人が励ますように微笑んでくれた。あの時前線で必死に戦っていた人たちに、認められた気がした。
「ありがとうございます。そう言ってもらうと少し自信が持てます」
二人が笑顔で頷いてくれた。隣で聞いていたリリーがうずうずした様子で、ずいっと二人に近寄った。
「あの、私も一緒に教えてください!卒業後、王宮で勤めたいのですが、護身術を知っていれば就職面接で特技に出来ますか?」
「リリアンナ嬢、勿論教えることは出来ますが、あなたは火炎玉の発案者ですよね?辺境伯領では、あなたの火炎玉のお陰で被害が抑えられました。王宮に就職するための実績には十分だと思いますが…」
「そうなんですか?あのあとのことは詳しく聞いていませんでした。田舎ですので…」
リリーの領には、辺境伯領の戦いは詳しく伝わっていなかったそうだ。王都では情報が出回っていたが、各領地には少し遅れて情報が届くようだ。
「そうでしたか…火炎玉は魔物にも効果がありました。途中で魔力が切れた時にも撤退するのに重宝しました。皆感謝しておりました。リリアンナ嬢、お礼が遅くなりましたが、ありがとうございました」
「そうですか。お役に立てて良かったです」
少し照れくさそうに、リリーが言った。現場の人間に認めてもらえるのは、私も嬉しかったから、きっとリリーもそうなのだろう。
「では、お二人ともに護身出来る技を教えましょう。属性に合った方法で、最低限のものなので、実際はそのようになる前に逃げていただきたい、ということはお伝えしておきます。あくまで最終手段ですからね」
かなり念を押されたが、属性に合った方法で、防御できる方法を教えてもらうことになった。リリーは土魔法で防御、火魔法での攻撃の初歩。私は水魔法で防御、風魔法で軽い攻撃、そして…
「できればですが、水と風を合わせて氷魔法の防御と攻撃が出来ると、さらに防御力が上がりますよ」