第115話 ローゼー子爵領へ行きます
翌朝、アレックス様は護衛2名と一緒に迎えに来てくれた。護衛と言っても魔法騎士団の騎士で、前に護衛についてくれた人たちだった。
「よろしくお願いします。マーティン様、ハリス様」
「こちらこそよろしくお願いします。途中で交代が入るまで、ご一緒させていただきます」
ローゼー子爵家には1か月滞在予定だ。長期のため護衛の方も3回ほど交代しながらついていてくれるそうだ。初めは顔見知りの方がいいだろうと、マーティン様とハリス様が来てくれることになったらしい。
「では行こうか。しっかり掴まっていてくれ」
アレックス様が合図して、皆で一斉に転移魔法を発動した。途中追跡する者がいないか確認しながら、数度に分けて転移を繰り返し、昼を過ぎる頃にローゼー子爵邸に到着した。
門の前で待ち遠しそうに待っていたリリーと抱擁を交わして、ローゼー子爵家の方々にもご挨拶させてもらった。護衛まで連れて来て少し仰々しいと思ったが、事情を聞いてローゼー子爵も協力を申し出てくれた。 遠い親戚の娘が来ていることにして、自由に領地で過ごしてほしいと言ってもらい、ホッとした。
「ありがとうございます、ローゼー子爵様」
お礼を言うと、ローゼー子爵は微笑んでくれた。
「大変な目に合われて、さぞ恐ろしかったでしょう。ここでゆっくりと療養し、楽しい休暇にして下さい。それと、私のことは叔父様、妻のことは叔母様と呼んでください。親戚の娘として扱わせていただきます。フィーと呼んでもいいでしょうか。名前でバレることはないと思いますが…」
「はい、お願いいたします。叔父様、叔母様、ジャック君」
リリーの弟のジャック君はまだ5歳で、リリーと同じオレンジ色の髪をした可愛い男の子だ。母親のテレーゼ様の後ろに隠れてチラチラとこちらを見ている様子が何とも言えず可愛い。ここに滞在している間にぜひお友達になりたいと思った。
「まずは、ゆっくりと静養してください。貧血に良く効く薬草を用意いたしましょう」
テレーゼ叔母様が優しく微笑みながら、私が滞在する部屋まで案内してくれた。客間には、若い女の子が好むような花柄模様の装飾が配置してあった。テーブルには可愛い花が飾ってあり、気づかいが行き届いた落ち着きのある空間になっていた。
「可愛いお部屋をありがとうございます。叔母様」
「自分の家だと思って過ごしてくださいな。後程食事を届けますね。今日は室内でゆっくり召し上がってください。元気になったら、一緒に食事をしましょうね」
アレックス様を残して、叔母様は部屋を出ていった。リリーもあとで様子を見に来るのでゆっくりしてと言い残して出ていってしまった。
「フィーネ、先ほど渡しそびれてしまったが、これを君に」
手を取られて指に何かを差し入れられた…
「指輪?」
「ああ、お婆様に作り方を聞いて作った。イヤーカフの応用で、認識疎外と防護魔法、そして何かあった時に私が転送されるようにしている。念のためお婆様に貰ったイヤーカフもそのままつけておいてくれ」
「認識疎外ですか?」
「ああ、フィーネだと知っていないものが見れば、フィーネとは認識されにくくなる。ここであまり目立つのはよくないからね。聖女だと騒がれれば、敵がここに来やすくなってしまう、念のためだよ」
アレックス様の瞳とよく似た青い魔石のついた指輪が、左手の薬指で輝いているのを見て嬉しくなった。