第114話 聖女とはなんでしょう
「陛下も今回のことを重く受け止められ、聖女に対する悪意に警戒するよう各方面に厳命された。私だけではなくフィーネを国が保護するから、今回のようなことは起こらないだろう。勿論私のフィーネを狙う奴は全力で私が潰す」
「つぶ…す、あの、どうしてそこまでするのですか?ただの元平民です。陛下が気になさるような者ではないです。大事になってしまって、気持ちがついて行けません」
アレックス様は困ったように微笑んだ。そして優しく頭を撫でながら顔を覗き込んできた。綺麗な顔が目の前に来て、少し落ち着かない気分だ。
「私の婚約者を無価値なように言うのは感心しないな。フィーネは大切な私の最愛で、さらにこの国を命がけで救った聖女だよ。守られて当然だし、私が守るのは必然だよね」
守られる、その言葉は嬉しい気持ちの他に違う感情を呼び起こした。なんだろう、モヤモヤが溜まっていく気がする。ただ嫌だとは言えず、頷くしかなかった。
「明日からリリアンナ嬢の所へ行くのは都合がいいから、予定はそのままにしてくれ。護衛はこちらで用意するし、明日は私も同行するから」
「でも、犯人が分かっていないのに、いいのですか?」
「ああいいよ。ただし極秘でリリアンナ嬢の所へ行くんだよ。その間にこの件は処理できていると思う。黒幕は目星がついているからね」
「黒幕の目星…女神様が誰か分かったのですか?」
「ああ、あの男を図書室へ推薦したのはブレス侯爵家の人間だった」
「ブレス侯爵家…ミネルバ様のお家ですか?」
一度舞踏会でお会いしたミネルバ様とは、その後会う機会はなかった。出会いとしては最悪だったから、仕方がないのだろうけど…
「フィーネが傷を癒した、あの令嬢だね。王妃様の姉が母親だ。王族の親戚として派閥のトップに立っている家だが、どうもここ最近怪しい動きがあって、こちらも警戒していたところにこの事件だ。この際いろいろと調べることになりそうだよ」
「そう、ですか…なにか恨みをかってしまったのですね、私…」
「気にしなくていい。君が気に病むことなんてなに一つもないよ」
「…はい」
そのあとは、攫われた状況、男の言動について詳しく説明した後、アレックス様が家まで送り届けてくれた。攫われた時に持っていたリリーへのお土産のお菓子は、残念ながら破損していたらしく、気を利かせた魔法騎士団の方が同じものを用意してくれたようだ。お金を払うと言ったが、破損した方のお菓子を騎士団の休憩の時に食べたので、大丈夫だと断られてしまったのでお礼を言ってありがたく受け取った。
出発予定が、菓子店が開店する前なので、お土産を買う時間が無かったので本当に良かったと思っていたら、後でこっそりマックス様が、あれはアレックス様が指示したのだと教えてくれた。教えたことは内緒だと言われてしまったので、お礼が言えなくて少し困ってしまった。
「大好きです、アレックス様」
別れ際に思わずつぶやいた言葉は、アレックス様に聞こえてしまったようで、嬉しそうに頬にキスをされた。私も嬉しくなって頬にキスを返した。そういえば私からキスするのは初めてかも…
「フィーネ…そんな可愛いことされたら帰りたくなくなってしまうな。明日迎えに来るから、それまでは外出しないようにね。今日は護衛を増やしているから安心しておやすみ」
そう言って、軽く唇にキスを落としてアレックス様は騎士団本部に帰っていった。