第113話 事情聴取されます
「もしかして、ノア先輩のお父様ですか?」
「はは、そうです。ダントン伯爵と名乗っていますが、薬草好きが高じて医師免許まで取得してしまい、今は王宮の医務局でお仕えしています。ノアは遅くに出来た子で、少し自由に育て過ぎたので心配していたのですが、あなたに出会ってからいい目をするようになったのですよ」
優しそうな目で意味ありげに微笑まれたので、なんとなく焦ってしまった。
「いつもノア先輩には大変お世話になっています…あの…」
「ダントン先生、治療ありがとうございました。あとはこちらで」
ずいっとアレックス様が私の肩を引き寄せた。ダントン伯爵がにっこり笑って医療鞄を持った。
「ああ、そうですな。若者の事情に無粋に口を挟むことはやめておきましょう。血が増えるまでは安静にしておいてください。では、お大事に」
「はい、ありがとうございました」
ダントン伯爵は、少し残念そうに退室していった。
「体調はどうかな?様子を見ながら事情を聞いていくけど、気分が悪くなったら遠慮なく言ってくれていいから、いけそうかい?」
「はい、少しフラフラしていますが、座っていれば大丈夫です。あの、先ほどの人は?」
「ああ、魔法騎士団の方で治療したあと事情を聞いている。実はあの者は元魔法騎士だったんだ。今回、辺境伯領では後方部隊で魔物討伐にも参加したが、魔物を見て仲間を置き去りにして逃げたので罷免になった。その後、侯爵家のコネで王宮の図書室に努めていたそうだ。まさか禁書庫に入って禁術に手を出すとは…今後は王宮図書室の在り方も見直されることになったよ」
「そうでしたか…禁術を発動させる技術がある方だったので、魔法関係の仕事をしているのだとは思いましたが…ミラ様が来てくれなかったら、危なかったです」
「お婆様には、フィーネは優秀だったと聞いたよ。あの状況で、暗黒魔法陣を自分で破壊したと感心しておられた…弟子にしたいぐらいだと言ったから、勿論お断りしておいたが」
私が魔女の弟子…ちょっと楽しそうだと思って笑ってしまった。アレックス様が不安そうにこちらを見たので、誤魔化しておいた。
「ところで、ミラ様は?お礼もちゃんと言えていませんでした」
「ああ、お婆様は戻ったよ。転送魔法が発動された時、丁度お爺様とダンジョンで魔物と対峙中だったみたいで、置き去りにしたお爺様を助けに行った…まあ、大丈夫だと言っていたから心配しなくていいよ」
ダンジョンで魔物と対峙中にミラ様が突然消えるなんて…さぞかしセイ様は焦っただろう…申し訳ないことをしてしまったと心の中で謝っておいた。
「お爺様にもイヤーカフを渡しているそうだから、危険なことがあったら転送魔法が発動される。先ほどまでここにお婆様がいたのだから大丈夫だよ。今度イヤーカフの作り方を聞いておくよ。次は私が一番に君を助けに行きたいからね」
どうやらミラ様に先を越されたのが悔しいようだ。出来ればそのような場面は二度と経験したくないが、来てくれるならアレックス様がいいなと思ってしまった。勿論内緒だ。
「ありがとうございます。それで、あの人は何故私を攫ったのですか?聖女の信奉者だと名乗っていましたが、女神様のお告げだとか、私を人形にするとか、何のことを言っているのかわからなくて…」
「そうか、女神と名乗る者にそそのかされて、このようなことをしたんだろうな…フィーネを操りたい者がいたとしたら問題だ。今やフィーネは救国の聖女だ。利用しようとする者が現れても不思議ではないが…」
「そんな…」