第112話 女神様って誰ですか
男は茫然としゃがみ込んだ。ミラ様が魔法で私の拘束を解いてくれた。
「うそだ…嘘だ、女神様は死なないと言ったのだ。私は正しいことを…ぐふっがはっ」
突然、男が苦しそうに血を吐いた。血が口から溢れ苦しそうに咳き込んでいる。
「ほら、失敗して発動しなくてもここまで苦しいのよ。発動したら確実に死ぬわよ。魔法陣を壊してくれたフィーネに感謝するのね。それに女神って誰よ、怪しさしかないわ。こんなことさせるなんて死神の間違いでしょ?アハハ」
ミラ様が私の足を癒しながら、ゲラゲラと笑っている。
「さて、私の癒しだとここまでね。あとはゆっくり自分で癒やしなさい。まずは移動しましょうか」
ミラ様が手を貸してくれ、立たせてくれた。かなり血が出たため貧血でふらふらするが、足の痛みは治まっていた。
「ま、待て。行かせるわけには、いかない…」
男が扉の前に立ち塞がろうとした時、どかんっと扉が弾けた。運悪く弾けた扉が男に当たってしまった…
「フィーネ!!大丈夫か!」
魔法騎士団数名と共にアレックス様が雪崩のように乗り込んできたようだ。男は気を失ったのか地面でピクリとも動かなくなった。
「お、お婆様!!どうしてここに?」
「おっそ~い!!全然だめじゃない。もう終わってるわよ」
ミラ様は地面で気絶した男を指さし、アレックス様に駄目出しをしだした。
『大丈夫かいな、突然攫われたから焦ったで』
アレックス様の肩にとまっていたチルチルが私の肩に飛んできた。
「ありがとうチルチル。アレックス様に知らせてくれたんだね」
『なんかすでに片付いたみたいやな』
「うん、ミラ様が助けてくれたの。お守りが有効で助かったよ」
「フィーネ、遅くなってすまない。場所を移動するから、抱き上げてもいいかい。血を流したと聞いた。痛い思いをさせてごめん」
シュンと落ち込んでしまったアレックス様に、私は首を振った。ミラ様は遅いと言ったけど、助けを呼びに行ったチルチルから事情を聞いて、居場所を特定してここまで来る時間を考えれば、最速だったと思う。ミラ様の転送魔法は例外なのだ。
「助けに来てくれてありがとうございます。誘拐されてしまってごめんなさい」
「フィーネは悪くない。さあ、移動するから抱き上げるよ」
優しく労わる様に抱き上げると、アレックス様たちは一瞬で転移した。着いたのは騎士団の本部がある建物だった。緊急事態に備えて、唯一王宮内で転移が出来る場所になっているそうだ。
「疲れているところ悪いんだが、フィーネに事情を聞かないといけない。ここのソファーで座っていてくれるかい。すぐに王宮の医師を呼んできてもらうから」
大切そうに、ゆっくりとソファーに下ろされ、クッションで背中を支えるようにしてから、アレックス様は部下に指示を出した。すぐに医師が来て貧血に効く薬湯が差し出された。傷は自分で癒やしたが、失った血までは戻らなかった。苦い薬湯を飲み干すと、医師が甘い飴を差し出した。
「フィーネ様、いつも息子から話は聞いていますよ。今回は大変でしたな」
その優しそうな顔が知り合いと重なった。その先生はノア先輩の雰囲気によく似ていたのだ。