第111話 暗黒魔術ダメ絶対
聖女の信奉者と名乗った男性は、嬉しそうに地面を指した。そこには何かの動物の血で描いた魔法陣があった。禍々しいそれが、私にとっていいものではないことは分かった。
「この魔法陣は、魔女が使う暗黒魔法陣です。王立図書館の禁書庫で見つけました。あなたを私のお人形にするのです」
暗黒魔法陣?禁書庫って誰でも入れる場所ではないはず…それにお人形??いやな予感しかしない…それに、ミラ様の使っていたのは黒魔術であって暗黒魔術ではなかった。
「あなたは誰ですか?禁書庫に入れる人間ってことですか?」
「私は…いや、そんなことはどうでもいいことです。聖女を公子から離すことが使命なのです。そうお告げがありました。私の女神が…望まれました」
話がどんどん分からなくなってきた。アレックス様と私を離す?女神様??
「あなたの望みですか?」
「私の望み?いいえ、女神様がそうおっしゃいました。…聖女様は私のものにしていいと、そうするべきだと…私の考えを肯定していただき、背中を押してくれたのです」
恍惚とした表情で、魔法陣を見ている男に話し合いでの解決は無理そうだった。どうしたらこの危機を回避できるのか?それにここは何処なのか…
そういえば、ミラ様が辺境伯を旅立つ前に言っていたことを思いだした。黒魔術で魂の欠片は戻った。黒魔術自体は、そんなに悪いものではないのだと…でも、血で魔法陣を描く禁術は……
「命がけ…」
私が呟いた言葉に男はびくりと肩を震わせた。禁書には暗黒魔術の危険性も記述されていたようだ。男が動揺を隠すように声を荒げた。
「大丈夫だ。女神様が助けてくれる。私は死なない!」
ミラ様はあと、なんて言っていた??そう、血は…
「もういい、さあ、魔法陣の中に入るんだ!」
男に抱えられ、魔法陣の真ん中に寝かされた。私は急いで水魔法で水の刃を作り出した。
「無駄だ!暗黒魔法陣は水ごときで消えはしない!!」
私は、ぐっと足に力を入れて次に来る衝撃に備えた。水魔法で作り出した刃が私の太ももに刺さった。
「いっ…たー」
どくどくと血が流れ、魔法陣を消していく。そう、ミラ様は言っていた。血で描かれた魔法陣は血で消すと…他に手がないとはいえ、自分で自分を傷つける行為は怖い…そして右耳のイヤーカフが熱くなった…
「あら、また?セイを置いてきちゃったわ。まあ、いいかしら」
のんびりこちらへ近づく人物を見て、私はほっと息を吐いた。まだ、お守りの効果は有効だったようだ。
「何だお前は?どこから入ってきた?」
男は私の方へ後ずさりながら聞いた。手にナイフが握られているので、出来ればこちらには来てほしくなかったが、ミラ様が近づく度にこちらに近づきとうとう私の所へ来てしまった。
「くそっくそっ、暗黒魔術を、このまま…」
男は魔法陣に手をついて、呪文を詠唱しだした。でも、魔法陣は私の血でその形を崩していたため、発動することはなかった。
「ざ~んねん。これでは発動は無理ね。こんな厄介な暗黒魔術を発動したら、あなたの命は一瞬で終わりよ」