第108話 いい雰囲気ですか
「そうか、普段通りか。それなら良かった」
ウィリアム殿下が嬉しそうに微笑んだ。アレックス様とよく似た微笑みを向けられ思わずドキリとした。会場からも黄色い悲鳴があがった。普段不愛想な第三王子が微笑んだのだ、破壊力がすごい……
「どうした?また考え事か?不敬だぞ」
「申し訳ございません。やはり従弟なのだと思っていました。アレックス様と同じような笑顔で…」
「そうか、僕は笑っていたか?アレックス兄様と…似ていたら嬉しいな」
そう言ってまた笑った。なんだろう、今日は笑顔の安売りなのか??やけに機嫌がいい殿下に、ドキドキとさせられた。しかし、会場からお似合いだと言う声が聞こえて、違う意味でドキリとした。握った手から緊張が伝わったのか、殿下が私を見た。
「気にするな、言わせておけばいい。お前はアレックス兄様の婚約者なのだ。堂々としていればいい」
「はい」
今夜のウィリアム殿下は、いつもより頼りがいがあった。出会った時の第一印象が最悪だったため、苦手だと思っていたが、今夜のことでいい印象に改めようと思った。
曲が終わったので礼をして、先ほどいた壁際まで戻ってきた。
「フィーネ、なんだかウィリアム殿下といい雰囲気だったように見えたんだが…」
アレックス様が少し焦ってこちらに来た。私はにっこり微笑んでアレックス様を見た。
「……すまない、大丈夫だ。フィーネ、頼むからその目はやめてくれ」
「そうですか?では、このお話は終わりますね」
「ああ、そうしてくれ。この後はどうする?」
「あちらの軽食が気になるので、行きたいのですが」
「わかった。一緒に行こう」
美味しい軽食を堪能していたが視線が気になったので、人目の少ないバルコニーへ出た。まだ肌寒いが、会場の熱気から逃れるにはちょうど良かった。
「冷えてしまうから、これを」
アレックス様がマントを私の肩にかけてくれた。ふんわりとアレックス様の匂いに包まれてホッとした。
「大丈夫かい?ずっと緊張していただろう。人目が気になったかい?」
どうやら精一杯誤魔化してきたつもりだったのに、バレていたようだ。
「注目されることに慣れてなくて、どうしていいかわからなくなってしまって、必死で笑っても、どこか私じゃなくて……殿下にも気にするなと言われたので、そう思おうとしたんですが、先ほど軽食を食べている時にも、ずっと誰かに見られていたようで…途中から味がしなかったんです」
「そうか、確かに今、フィーネは注目の的だからな…悪意はないと思うが、不躾な視線は気になるな…もう帰ろうか?一応陛下にも挨拶したし、ダンスもした、食事もしたから、もう十分役目は果たしたよ」
「え、いいのですか?」
「ああ、いいよ。心配しなくていい。後のことはマックスに押し付けよう」
優しく抱き寄せられ、背中とトントンとされた。私はアレックス様にぎゅっと抱きついて頬を押し付けた。
『部下使いの荒い上司やな…』
チルチルが呆れた声で呟いたけど、この場所から早く帰りたかったので、聞かなかったことにしてしまった。ごめんなさい、マックス様。私は結局そのまま家に帰って来てしまった。
「おやすみ、フィーネ。後のことは気にせずに、ゆっくり休んで」