第106話 聖女フィーネ
会場をゆっくりと進んで行くと、すれ違う度に騎士団の人たちにお礼を言われた。
「聖女フィーネ様、あなたのお陰で生きて帰れました。ありがとうございました」
そう言われる度に恐縮して、会釈をするので精一杯だった。現地では帰還に向けて準備していたり、私自身が帰る直前まで療養していたこともあり、あまり騎士団の人たちに会っていなかった。なので、直接お礼を言う機会がなかったため、今夜殺到したのだろうとアレックス様が言った。改めて沢山の人に感謝されると、いたたまれない気持ちになってしまう。
あの時は必死だった、結果的にみんな助かったけれど、それはそうしようとしたのではなく、必死になった結果、ギリギリそうなっただけだった。
「お礼を言われるようなことは、出来てなかったと思ってしまって、どうしていいかわかりません…」
ぽつりと言葉が洩れた。きっと隣にいたアレックス様にしか聞こえていないだろう。
「いいんだよ、それで。偶然でも必然でも、今こうやってみんな無事に帰って来られたんだ。そして、それは間違いなくフィーネがあの時頑張ってくれたお陰なんだから、ちゃんと誇っていいんだよ」
そう言って、アレックス様は私の頭を優しく撫でた。そうされると、自然と肩の力が抜けて気が軽くなった。ずっと、気にしていたのだ。陛下から勲章を賜った時も、身の丈に合っていないような、罪悪感のような感情を抱いてしまった。でも、そんな気持ちをアレックス様が解してくれた。誇っていいと言ってもらえた。それが本当に嬉しかった。
「ありがとうございます。大好きですアレックス様」
「…フィーネ、急にそんな可愛い顔でそんなこと言われたら、このまま連れて帰りたくなるよ。もう帰っていいかな?いいよな…」
「いいわけないですよ。今夜の主役ですよ。何馬鹿なこと言ってるんですか、団長」
声がする方へ顔を向けると、そこには綺麗な女性を連れたマックス様がいた。
「ちっ気づかれずに帰ろうと思ったのに…」
「こんばんは。マックス様、そちらの女性は?」
落ち着いた感じの綺麗な女性だ。歳は私より上に見えた。
「こんばんは、フィーネちゃん。こちらは僕の遠縁にあたる令嬢で、来年からトルカーナ魔法学園に通うため僕の屋敷に住んでいるんだ」
「年下…でしたか」
「はじめまして、アルダール様、スミス子爵令嬢フィーネ様。アッカー伯爵家のビビアンと申します。よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします。アッカー伯爵令嬢様」
「あの、ビビアンとお呼びください。わたくしもフィーネ様とお呼びしてもいいでしょうか?」
「はい、ビビアン様、どうぞフィーネと呼んでください」
「お会いできて嬉しいですわ。わたくしルイス辺境伯領に近い領地におりましたの。それで魔物が来ることもありましたの。フィーネ様のお陰で魔物被害が減ったと聞いております。本当にありがとうございました」
「いえ、そんな、魔法騎士団の皆さんや兵士の方が頑張って討伐された結果です。私はたいしたことは…」
「まぁ、謙遜なさらなくてもいいではないですか。あなたは素晴らしい聖女様ですわ。きっと理想の女性なのですわ。そうでしょう?」
ぐいぐいと来られて、アレックス様の腕を思わず掴んでしまった。理想の女性って??なんだか怖い…
「おいおい、そこまでだよビビアン嬢。フィーネちゃんがドン引きだよ…」