第104話 帰りましょう
前ルイス辺境伯エイダン様は、剣と共に辺境伯の墓地にひっそりと埋葬された。
辺境伯領で5日ほど休息を取った後、私たちは王都へ向けて出立した。呪いが解けたルイス辺境伯もイーサン様に支えられながら一緒に見送りに来てくれた。派遣されていた私兵の方々は、一足先に自分の領地へ帰っていったので、残るは王都へ帰還する私たちだけだ。
「アレックス団長、聖女フィーネ様、魔法騎士団の皆様。この度のこと本当に申し訳ございませんでした。陛下より、引き続き辺境伯領を復興せよと拝命いただきました。誠心誠意、命の限り務めさせていただきます。二度とこのようなことが起こらないよう、聖女の森を守っていきます。本当にお世話になりました」
親子で深々と頭を下げ、私たちが見えなくなるまで見送ってくれた。
今回、ルイス辺境伯にほとんどお咎めがなかったのは、前辺境伯エイダン様の事情を聞いた前陛下であるセイ様の願いだったようだ。ある意味元凶だ。
「エイダンは私の乳兄弟だったんだ。魔法の腕前も抜群で、実力で王太子妃だったイザベラの護衛騎士になって、その後魔法騎士団長にまでなった。私の自慢の友人で、側近だった。でも、ちゃんと私は見えていなかった、いや、敢えて見ないフリをしてしまったんだ。私が自分の気持ちを優先した結果、エイダンもイザベラも苦しい思いをさせてしまった…せめて、苦しめた現ルイス辺境伯と息子イーサンがこのままこの地を治めることを、奪わないでやって欲しい……」
セイ様の言葉を、アレックス様が陛下に伝え、現状魔物被害で荒廃した土地を復興するのも、今まで治めていた者の方がいいだろうと陛下が判断したのだ。
「セイが落ち込んでうっとおしいから、私たちも行くね。食い逃げした食堂にも代金を払わないと…また、何かあったら遠慮なく言ってね。いつでも駆けつけるから」
「はい、助けていただいて、本当にありがとうございました」
「お爺様のことよろしくお願いします。ミラお婆様お元気で」
「ええ、アレックスもフィーネも元気でね。それとアーサーにも元気でいるって伝えておいて」
シュンとしたセイ様の首根っこを掴んだまま、笑顔でミラ様は転移していった…
ルイス辺境伯の隣の領地まで移動した後は、魔力量によって3部隊に分けられ、それぞれ転移することになった。アレックス様率いる部隊は、この後一気に王都へ転移する。後の部隊は、2泊する部隊、3泊する部隊に分かれた。
「転移魔法は魔力消費が多いからね。補助の魔石があるとはいえ、一気に移動すると危険なんだ。比較的魔力の多い部隊は今日王都に向かうけど、重症だった者や、魔力量が少ない者は転移距離を短くして、宿泊しながら帰って来るほうが安全だからね」
「あの、私は…?」
「フィーネは私が連れて行くから、そこは気にしなくていいよ。私の大事なフィーネを他の騎士に任せてなんて帰れないよ」
「あ、ありがとうございます」
今回のことがあってから、益々甘々な雰囲気を出すアレックス様に少し焦っていると、マックス様が隣から声をかけてきた。
「団長、僕が先に転移して、現場確認してきます。イチャイチャは帰ってからにしてくださいね」
アレックス様が反論する前に、マックス様はさっと転移した。