第101話 聖女は祈ります
霧が森全体に行き渡るようにしながら、そこに清浄と癒しの魔法をかけていく。それを絶えず繰り返す。先ほどからどんどん体の感覚がなくなっていた。冷や汗が頬を伝う、気を抜けば意識が持っていかれ、気を失いそうだ。でも、まだだ、まだ足りない。あと少しでみんなが助かる。
『フィーネ、あと少しや。もう少しで森の中に霧が行き渡るで…大丈夫か?』
「あと少し、もう少し…」
自分がどこにいるのか、何をしているのか、どれくらいそうしていたのか時間の感覚すらなくなったころ、肩に誰かの手が乗って揺さぶられた。
「フィーネ、もう大丈夫よ。フィーネ!!こっちを見て、今すぐ魔力を止めて!死んでしまうわ」
揺さぶられた相手をぼんやりと見た…体が重い…
「ミラ…さ、ま?」
「そうよ、ミラよ。もう大丈夫、みんな助かったから、もういいのよ」
「たす、かった…アレックス、さ、まも?」
「ええ、あの子も今は気を失っているけど、大丈夫よ」
「そう、ですか、よ…よかった…」
「今からあなたを癒すから…フィーネ?フィーネ?!」
私はホッとして、重い体を手放した…ミラ様の声が遠くから聞こえる……
ふわふわと体が軽くなった。今まで重く苦しかったのに、今は空すら飛べそうだ…実際、そうなったのかもしれない。浮いた体の下で、横たわった私にミラ様が必死で癒しの魔法をかけてくれているのが見えた。その間にもどんどん体が軽くなって、天の方へ向かって行こうとする。
このまま天に行けば、それはつまり死を意味するのか…ぼんやりそう思っていると、下から私を引っ張る人たちがいた。イザベラ様と前ルイス辺境伯だ。二人は私にしがみついて下へ戻そうとしているようだ。
私は天に向かって行きたい気がしてもがいた。もう、思い残すことはない…皆助かって、それで…それでよかった?本当に……??
「フィーネ!!目を開けてくれ!フィーネ、お願いだ、俺を置いていくな!!」
悲痛な叫び声に驚いて下を向けば、そこには私の体に縋り付いて泣いているアレックス様が見えた…
良かったアレックス様が生きている。これで、私は……??天に……?行くの??
「戻ってらっしゃい!このまま死んでいいの!!」
ミラ様が必死で叫びながら癒しの魔法をかけ続けている…このまま死ぬの?私に縋り付いて下に引っ張りながら、イザベラ様と前ルイス辺境伯が首を振っている。駄目なの?
「フィーネ、目を開けて…俺を置いて行くなんて、そんなこと許さない!追いかけるぞ」
アレックス様が物騒なことを言った…追いかけるって、折角助かったのに、死んでしまうの?私も死んでしまうの??…そんなの…そんなの、嫌だ!!
『よっしゃ、ここや、ここに戻るんや!!』
チルチルが浮かんでいる私を見て、そう言った。戻る、そう、私は戻るんだ!!
そう思った瞬間、一気に下に引きずり込まれた。ふわふわと気持ちよかった体は、今は重く苦しい…でも生きているのね、私……重い瞼を持ち上げたら、目の前にアレックス様の顔が見えた。
「ア、アレックス、さ、ま…」
「フィーネ…フィーネ」