第100話 今出来る事を
「そうですか、助かります。私では力が足りないみたいで」
「わかった、ちょっと離れていて」
そう言ってセイ様はグッと剣を掴むと、石碑に足をかけ一気に剣を抜いた。そして、抜いた剣をじっと見た。
「この剣…見覚えが…それにこの骸…」
「あの、この方は前ルイス辺境伯です」
「…エイダ、ン…エイダンなのか?やはりこの剣は、護衛騎士だった頃にイザベラが授けた剣か…」
「はい、詳しいことは後で。まずは清浄魔法でここを封印します」
「わかった、こちらに来る魔物は、微力ながら私が防ぐから」
「よろしくお願いします」
私はポーチから体力回復ポーションを取り出し、一気に飲み干した。呪いを解くのに使った魔力を出来るだけ取り戻したかったのだ。石碑に手を当てて、目を閉じた。ここからは更に時間と体力の勝負だ。
『よっしゃ、わいも出来るだけ補助するけど、ここからはフィーネ次第や。気合入れて頑張るで』
「はい、チルチル。お願いね」
私は石碑に清浄魔法をかけていく。封印は石碑に刻まれた魔法陣がする。幸い剣は魔法陣を傷つけてはいなかった。魔法陣を発動するのに必要な魔力、つまり清浄魔法を注げばいいのだ。ただ、どのくらい注げばいいのか、文献にはなかったし、チルチル曰く初代聖女サキ様でもギリギリだったそうだ。
今回は呪いを解くのに魔力を使った後にこれを行う。この状況で魔力が足りなかった場合、ここにいる魔法騎士団は全滅するかもしれない…
『何も考えへんでええで。兎に角集中や!!』
私は心を無にして祈った。先ほどよりグッと魔力が吸い取られるのを感じる。額から汗が流れ落ちる。絶対に守りたい。ただそれだけを考えて祈った。いつの間にか、周りの音は聞こえなくなっていた。
ガチャンと頭の中で音が響いた。魔法陣が動き出した…?そおっと目を開けると、石碑の魔法陣が輝いていた。
『ギリギリなんとかなったんとちゃうか?』
「やったの?ちゃんと出来た…みんなは?アレックス様?」
振り向くと、私の後ろでセイ様が肩から血を流して倒れていた。さらに結界があった場所に見覚えのある服装の男性が横たわっていた…
「あ、アレックス様…まって、どうして」
魔力をほとんど使い果たした重い体を引きずるようにして、アレックス様の元まで行った。辛うじて息はしている。でもこのままでは助からない。周りの魔法騎士団の人たちも皆動ける者がいなかった…皆死んでしまう…
私はポーチに入っている体力回復ポーションをあるだけ全部飲んだ。
『おい、まさかと思うけど、これからみんなを癒すんか?そんな無茶なことしたら、死んでまうで』
「でも、このままじゃ皆死んでしまう。アレックス様もいなくなっちゃう、そんなの嫌!」
『気持ちはわかるで、でもええんか?死ぬかもしれへんで?』
「…今やらずに後悔するより、今出来る事をやって、それで後悔するならいいよ。お願いチルチル、手伝って」
『はあ、しゃーないな。広範囲に癒しの魔法と清浄魔法を行き渡らせなあかん。水魔法にしよか。霧状にした水魔法に癒しと清浄の魔法を組み込んで、森一帯に行き渡らせるイメージや。補助はまかしとき』
「ありがとうチルチル。頑張るよ」
『広範囲やから、死なん程度の癒ししか出来へんで。森全体に清浄魔法が広がれば、今いる魔物もほとんど弱体化する。幸いここら辺の魔物は、さっきの封印魔法でおらんなったみたいで助かったけどな…』
私は頷いて、目を閉じた。水魔法で霧を作り出し、そこに清浄魔法と癒しの魔法を練り込んだ。