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その1

新しいエピソードが思いつきましたので

ちょっとだけ連載再開です

不定期更新の予定ですが そんなに間は開かずに更新していきたいと思います


 その日、私こと音野(オトノ) 存歌(アリカ)は、知り合いに呼び出されていた。


 待ち合わせ場所は、長鳴ヶ丘(ながなきがおか)駅から出ているバスに乗った先。

 駅前からやや離れたところにあるショッピングモールだ。


 バス停からすぐそばから駐車場に入って、そこの正面にある入り口で待ってるといっていたけれど。


 きょろきょろとしながら、歩いていると先にこちらに気づいたらしい男性が手を振っている。


「ああ、音野さん。こっちこっち!」


 彼が私を呼び出した張本人――鷸府田(シギフダ) 摩夏(マナツ)さん。


 黒い皮のジャケットに、黒のジーンズという格好をしたこの男性は――明城 シガタキという名のそれなりに有名なVチューバーの中の人でもある。


 イケメンだし、悪い人ではないんだけど、オカルトが絡むとちょっとグイグイくるところは少し苦手だったりもする。


「突然呼び出してゴメンね?」

「それはいいんだけど……」


 両手を合わせて片目を瞑り、茶目っ気たっぷりに謝ってくる姿は、まぁ可愛いとは思う。

 あるいは、自分の容貌を理解して利用しているという点ではあざとい――と言うかも。


 まぁそれはいいとして……。


「呼び出した理由って結局なに? それと、そちらの方は?」


 明らかに鷸府田さんの連れっぽいおじさんがいる。


「それはボクも気になるかな。摩夏くん。お姉さんの家に行くのに、わざわざそちらの子を呼んだ理由とかあるのかな?」

「そうですね。まずは姉の家に向かう道すがら説明しますよ」


 おじさんにそう答えてから、「あ」と鷸府田さんは声を上げた。


「そうそう。こっちは音野(オトノ) 在歌(アリカ)さん。

 そして、こちらは僕の姉、祀璃(マツリ)の勤めている会社の上司の六綿(ロクワタ)さん」

六綿(ロクワタ) 灼啓(シャッケイ)と申します」


 紹介された六綿さんが名刺を差し出してくる。

 それを慌てて受け取ってから、私は頭を下げ、そして私もカバンから名刺を取り出した。


 所長さんが作ってくれた、出来たてホヤホヤのやつだ。

 なので、渡す機会を待っていたともいえるかもしれない。


「えっと、音野 在歌といいます」

「探偵さんなんですか?」

「はい。見習いというかバイトというか……ですけどね」


 私がうなずくと、六綿さんが目を眇めながら鷸府田さんを見る。


「摩夏くん。お姉さんに会うのって探偵さんが必要な案件なの?」

「いやぁ……そういうワケじゃないんですけど……」


 後ろ頭を掻き、鷸府田さんは苦笑しつつ歩き出す。


「とりあえずこっちです。ちゃんと説明しますんで」


 私と六綿さんは顔を見合わせると、お互いに仕方なさげな顔をして、彼のあとを追いかけた。




「姉さんは潔癖症のケがあるんですよ。あと、男性嫌いなところも」

「ああ。やっぱりそうなんだね。仕事中も少し気になってはいたんだ」

「そうなった原因は色々ありますが、そこは置いておきます」


 ショッピングモールの駐車場を抜け、すぐ近くの通りの横断歩道を渡りながら、鷸府田さんが、お姉さんについて話をしている。


「自宅に男を上げるのはあまり好きじゃないみたいなんで、音野さんを呼んだのはそういう意味での保険ではあります」

「別にボクらは、彼女の家に上がりたいワケではないだろう? それに単に保険というのならば、別に音野さんである必要もなかったはずだ」

「そうなんですけどねぇ……」


 バツが悪そうに、頭を掻く鷸府田さん。

 確かに六綿さんの言う通りだ。


「そういえば、どうしてお姉さんの上司である六綿さんが、お姉さんの家に?」


 私がふと訊ねると、六綿さんが答えてくれる。


「最近、無断欠勤が続いているんだ。真面目な子だし、休むときはちゃんと連絡してくれるタイプだとは思ってたんだけど」

「それで不審がった六綿さんが実家に連絡――で、家族の中で姉さんの家に近いとこに住んでる僕に声が掛かったんだよ。合鍵もってるしね」

「なるほど」


 ――と、相づちを打ちつつ、やっぱりピンと来ない。


「男性嫌いで女性が必要というなら、別に私じゃ無くても会社の人で良かったんじゃないかな?」

「うん。それはボクも思ったんだ。音野さんでなければならない理由とかあるのかな?」

「うーん……」


 煮え切らない反応のまま、鷸府田さんは足を止める。

 大きめのマンションの入り口だ。


「……わ、高そうなマンション……」

「実際、郊外とはいえ家賃高めなマンションだよ」


 一人暮らしでもこういうところ住めるのか。すごいなお姉さん。


 中に入ると、入り口にテンキーのついた大きな装置が置いてある。

 私がそれを不思議そうに見ていると、六綿さんが教えてくれた。


「あのテンキーで、各部屋のインターフォンに繋がるんだ。

 お客さんはそうやって、用のある部屋の住民に声を掛けて、あそこの自動ドアのカギを開けてもらう」

「わ。あの自動ドア、ふつうには開かないんだ」


 セキュリティの高いマンションってあんまり関わり合いがないから驚きのギミックだ。


「住民だったり、身内だったりするとこうやってカギを使って開けられるんだけど」


 そう言って、鷸府田さんは装置についている鍵穴に、手元のカギを差し込む。

 すると、自動ドアが開いていく。


「一度閉まっちゃうとカギがまた必要だから、ささっと入っちゃって」


 なんだろう。

 特に何かあるワケではないんだけど、この自動ドアをくぐったら別世界って感じがするな。


 別に怪異とかは関係ないと思うんだけど……ああ、そうだ。結界とか境界ってやつか。

 壁や塀、柵とかで区切られた場所を越えた時、何となく空気が変わった気がする場合は、そういうモノの中へと入り込んだ可能性があるんだっけ?

 

 別に悪意のあるなし関係なく、住民からしてみれば、お客さんって考えようによっては異物だもんね。


 そんなことを考えていると、エレベーターはこっち――と、鷸府田さんが私たちを案内する。


「姉さんと連絡着かなくなったのは、別に六綿さんたちだけじゃないんだ。僕たち家族も、連絡がつかない」


 エレベーターを待つ間に、鷸府田さんがそう口にした。


「最悪は警察案件って思ってる?」


 六綿さんの問いに、鷸府田さんは少し難しい顔をする。


「もしかしなくてもオカルト案件?」

「…………」


 そう問いかけると、鷸府田さんは私から目を逸らした。


「私、何も聞いてないから、何の準備もしてきてないよ?」

「音野さんってそういうのも調査するの?」


 六綿さんの問いに私はうなずく。


「むしろ私がバイトしている探偵事務所の主要案件はオカルトメインです」


 すると、六綿さんは鷸府田さんに半眼を向けた。


「摩夏くん。もしかして、音野さんにタダで調査してもらおうと思ってたりしない?

 そういうの、あまり良くないと思うけど」


 全くもってその通りだ。

 お仕事をお友達価格でやってくれ――みたいなのは全部断れって、綺興(キキョウ)ちゃんから言われてるしね。


「六綿さんって、オカルト案件を不審がらないんですか?」


 あ、そういえば。


 鷸府田さんが問いかけたタイミングでエレベーターがくる。

 三人で乗り込み、鷸府田さんが6階を押した。


「ボクが担当して、今はキミのお姉さんが担当している作家さん……オカルト案件に首を突っ込むのが好きなんだよ」


 六綿さんが大きく嘆息しながら、そう口にする。


「実際、娘が巻き込まれたオカルト案件から、娘を救ってくれたりもしたしね。

 そういうのを目の当たりにしているから、オカルト案件をただの創作だなんだとバカにはできないさ」


 だけど――六綿さんは鷸府田さんを睨む。


「お姉さんが何らかの事情でオカルト事件に巻き込まれてる可能性を考慮した上とはいえ、何も説明せずに音野さんを呼んだのは良くないよ」

「……はい」


 鷸府田さんが観念したようにうなずいたところで、エレベーターは6階に着いた。


「606号室が姉さんの部屋です」


 私たちはエレベーターを降りて、綺麗な廊下を歩いて行く。


「本当にオカルト案件だった場合、後日請求書を送るのでよろしく」

「……音野さんもすっかり社会人のようになっちゃって……」


 失敬な。私はまだ、そういう仕事に慣れてないだけだ。

 日々勉強で色々できるようになってるんだからね。


「プライベートで助けを求められたらいざ知らず、こういう形でオカルト案件を持ってこられたなら、仕事としてやりますって」

「あれ? もしかして事前に姉さんのコト相談したらタダだった?」

「内容にもよるけど、友達として本当に困ってるなら助けてたよ?」


 気まずそうな顔をする鷸府田さん。

 それを見ていて、六綿さんが笑う。


 ところで、廊下を歩いてて気づいたんだけど、このマンション――各部屋の入り口の前に柵があるんだね。


「ここだ」


 鷸府田という表札の書かれた部屋を、鷸府田さんが示す。


「……あれ?」


 奇妙な感覚に私は目を眇める。


「どうしたの? 音野さん?」


 私は柵越しに、お姉さんの家の玄関の方へと手を伸ばす。

 その瞬間、妙な感覚に襲われて手を引っ込めた。


「…………」

「音野さん?」


 不思議そうな二人を無視して、私は隣の部屋の前へと移動。

 余所から見れば怪しい動きだろうけど、とりあえず気になったから仕方がない。


 同じように柵越しに入り口の方へと手を伸ばす。

 605号室では違和感がない。


 今度は逆隣だ。

 607号室の柵でも同じように手を伸ばした。

 こちらも違和感がない。


 改めて、606号室の柵の前に立つ。

 意を決して柵を開けて、玄関の方へと踏み出す。


 マンションの入り口の自動ドアを越えた時に似たような感覚に襲われる。

 だけど、あんな曖昧なモノじゃない。


 この柵を境に異界化ってやつをしているようだ。

 そして、この感覚に私は覚えがある。


 境界線を境に文字通り空気が変わる感覚。

 嬬月荘の時は空気が淀んだけど、ここはその逆。

 空気が怖いぐらい澄んでいる。


 自然がいっぱいの山の山頂か――と錯覚するほどに。

 雑菌や、塵などの一切を含まない空気。


 綺麗すぎてかえって息苦しく感じるくらい。


 方向性は違えど、嬬月荘や、氷徳ビルの時のモノによく似た空気というか感覚の変化。


「……この部屋だけ、能力舎(ステージ)化してりしない、これ……?」


 その状況に、私は思わずそううめくのだった。


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