表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~  作者: 北乃ゆうひ
Fail.5:コスバのJK - スピーカー・オブ・サブスタチュー -
43/60

その2


 バイトの時間が終わったあと、私と綺興ちゃんは噂のコスモバーガーを探すために『夢アジサシ』をあとにする。


 駅の西口の前に広がる入り組んだ道に小さなお店が連なる飲食店街を抜けて、駅へと入った。

 そのまま駅を抜けて東側に出ると、バスやタクシーの為のロータリーが広がっている。


 ロータリーを正面に、右手側に駅前デパートのDOMICO(ドミコ)

 左手正面には、大型スーパーの西美(セイミ)ビルだ。


 西美ビルのロータリーに面した角にはドールトール・カフェが。

 西美の正面入り口のはす向かいには、ミステリードーナツがある。


 ドールトール・カフェとミステリードーナツの間には、奥のマンションに続く歩行者用の道が伸びている。


 つまり、コスモバーガーの入る余地がないのだ。


「まぁ、あるわけないよね」

「そうね。通学時にここで降りるから、いつも見る光景なワケだし」


 私と綺興ちゃんは二人揃って首を傾げる。


「あ、Warbler(ワーブラー)の方でコスモバーガー公式が長鳴ヶ丘駅前に店舗はないって(ワブ)ってる」

「公式もアナウンスしないといけないくらいには広がってるってコトだよねぇ……」


 スマホでSNSを確認しながら、綺興ちゃんが苦笑した。

 それに、私も何とも言えないリアクションをしてしまう。


 現場にいる私たちの目に、コスモバーガーは存在していないのだから、公式は間違ったことは言っていない。


 それでも、リプライや引用リワーブなどで「うそだー」「ほんとうにござるかー?」などという内容の投稿が相次いでいる。


 さて、どうしたものか――と私が思っていると、私たちの前を女子高生らしき制服を着た二人組が横切っていく。


「公式もここにお店ないってワブってるー!」

「えー! でも、あそこにあるじゃん!」

「ほんとだよねー!」


 そのやりとりに、私と綺興ちゃんは顔を見合わせた。


 お店がある?

 何を言ってるんだろう?

 そんなもの、どこにも……どこにも……。


「あれ? あのさ、綺興ちゃん。私の見間違いかな……テリドとドールトールの間に、コスバがあるんだけど……」

「は? 何言ってるの存歌? さっきからそれが無いって話を……あれ?」


 私たちは二人揃って目を擦る。


 蜃気楼のように揺らいでいる。

 存在はあやふやで、確固たるものはなく、石畳風の地面が透けて見えてはいるものの、間違いなくそこにコスモバーガーがあった。


「……ある、よね?」

「うん。なんかあやふやな形だけど、間違いなくお店が……」


 なんだろう……猛烈に嫌な予感がしてきた。


「あの子達は揺らめいた姿のお店に違和感ないのかな?」


 綺興ちゃんの言葉に、私は小さく首を横に振る。

 なんとなくだけど、信じるモノには見えているんじゃないかなって感じる。


「たぶん、あの二人には確固たるお店が見えてる。

 地元民や駅利用者じゃないから、あそこにお店があるコトに違和感がないんだと思う」

「認識や思い込みによるウンタラってヤツ?」

「ついでに名付けもされちゃってるんじゃないかな。長鳴ヶ丘のコスバっていう……」

「完全に確立された怪異になってるってコト?」

「確証はないけどね……」


 私は嘆息して、スマホでメッセージアプリのLinker(リンカー)を開く。

 宛先は、もう一つのバイト先――怪異探偵事務所の所長……にしたいんだけど、所長のIDが分からないので、『夢アジサシ』のマスターへ送ることにする。


 マスターは所長と仲が良さそうなので、これで情報は行くはずだ。


 現時点で推測できる、怪異化したコスモバーガーの情報を送信した私は、スマホをカバンに戻して顔を上げる。


「止めても行くつもりでしょ、綺興ちゃん」

「そりゃあもちろん? 興味あるし」


 綺興ちゃんを一人で行かすのは不安なので、私も覚悟を決めるとしよう。


 見れば、揺らめくコスモバーガーの前で先ほどの女の子二人がスマホで自撮りをしている。


 私がそれを指差しながら、綺興ちゃんに訊ねた。


「……私たちも自撮りする?」

「しとこうか」


 女子高生二人は揺らめく自動ドアを潜ってお店に入っていく。

 蜃気楼のように半透明に揺らいでいるお店のはずなのに、中に入った二人の姿は見えなくなった。


 奇妙なことに、それを不思議に思う人はいないようだ。

 バス待ちやタクシー待ちをしている人たちが多少いるにも関わらず、である。


 みんなそれぞれに時間を潰していて、こちらに興味を持っている人はいない。


「揺らめく建物なんて怪しいのになー……」

「噂そのものを知らないか、そもそもコスバのJK構文に興味がない人には、認識できないのかもしれない」


 私の独り言を綺興ちゃんが拾う。


「万人に見えるワケじゃなくて、信じる人にしか見えない。

 信じてない人には、建物だけじゃなくて、コスバに興味を持ってたり、自撮りしていたりする客も認識できていないんじゃないかな。

 認識していたとしても、妙に若い子があそこで自撮りしてるな――くらいなのかも」

「それなら確かに、誰も不思議に思わない……か」


 うーむ……なんとも不思議な現象だ。


 ともあれ、私たちも自撮りをする。綺興ちゃんのスマホで。

 半透明で蜃気楼のように揺らめいている奇妙なコスモバーガーをバックに二人で並んでパシャっと。


「……どう撮影できてる?」


 私が訊ねると、綺興ちゃんはファイルを呼び出した。


「揺らめいたの撮れてる! これアップしたらバズらないかな?」


 綺興ちゃんが目を輝かせるけど、私はそれにストップをかける。


「これ以上、噂そのものを確固たるモノにする材料を投げるってどうだろう……。

 柳の下の幽霊を、本物だったぞ~って喧伝するのって、危なくない?」

「確かに」


 残念がりつつも、綺興ちゃんが写真をLinkerで共有してくる。

 私はそれを受け取りつつ、マスターのIDへと写真を流す。


 スマホをカバンに戻そうとして、私はふと思いとどまった。


「あ、そうだ。せっかくだからこのまま動画撮影しつつ中に入ってもいい?」

「もちろん」


 綺興ちゃんの許可をとって、自撮りの要領で撮影しながら後ろ向きに私は歩く。

 それを見て、綺興ちゃんは私を先導するように動き出す。


 揺らめく自動ドアが開いたあと、私たちは、その半透明なコスモバーガーへと足を踏み入れるのだった。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!~
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】レディ、レディガンナー!~荒野の令嬢は家出する! 出先で賞金を懸けられたので列車強盗たちと荒野を駆けるコトになりました~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ