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その12


「ウルズ、お願い」


 最初のおじさんを失神させた音をウルズが手にする。それを複製し――


「やって!」


 ウルズは駆ける。


 ふつうの人には見えない(ヴィジョン)が、音を押しつけておじさんたちがアヘ顔さらしながら失神していく。


 ……地獄絵図かな?


 自分でやっておいて、ひどい光景だと思う。

 だけど、無力化できたことには違いない。


「小娘……殺しておけばよかったか?」

「怪異に殺されかけてたのを助けてあげたのに酷い言い草ですね」


 できるだけ不敵に。

 できるだけ余裕を持って。

 私は真っ直ぐに、残ったおじさんを見る。


 どうやらこの人が私を蹴飛ばした人のようだ。


「なぜ俺だけ残した?」

「私は……見習いとはいえ探偵なので」

「どういう意味だ?」

「必要じゃないですか。謎解きの時間って」

「ふざけてるのか?」

「大真面目ですよ」


 頭痛いし、ほっぺた痛いし、お腹も痛いし、気持ち悪いし。

 コンディションは最悪だけど――だけど、それでも……みんなを守る為に、余裕ぶって見せないと。


「このビルが人喰いマンションと呼ばれる原因。

 本当の人喰いは、あなたたちですよね?」

「…………」


 無言で殴りかかろうとしてきたおじさんを、ウルズに押さえさせる。


「なんだ……身体が勝手に止まって……!?」

「このビルには確かに怪異が住み着いています。人を助けるコトもあれば害するコトもある。そんな怪異です」


 ウルズに突き飛ばしてもらい、おじさんは尻餅をつく。

 それを下目遣いで見下すように見ながら、私は続ける。


「この怪異は人を容易に殺せます。実際、怪異に殺された人も少なくないでしょう。

 ですが――ここの怪異は、人を消すコトはできません」


 おじさんは尻餅をついたまま、私に射殺すような眼差しを向けてくる。

 めっちゃ怖い。怖いけど、余裕ぶって話を続ける。


「人喰いマンションは、中に入った人が行方不明になるから、喰われて消化されてしまったのではな……と噂になったんです。

 でも、ただ死ぬだけならば――行方不明になんてなりませんし、人喰いマンションだなんて呼ばれなかったコトでしょう」


 背後で、鷸府田さんが「あ」と声を出した。


「専門家が対処し終えた心霊スポットだけだと不安だったんでしょう?

 だから、生きた心霊スポットを作り出して、地域興しに利用した」

「……お前、どこまで……」

「あ、本当に地域興しの一環だったんですか? 最低すぎません?」


 そんな理由で殺され、遺棄されたなんて……あまりにも浮かばれなさすぎない?


「ともあれ――怪奇現象で死んだ人はどうにもならないけど、実際に殺してたり、死んでた人の隠蔽や遺棄だったら……法律で裁けますよね?」

「調子に乗るなよ、小娘ぇぇぇぇ!」


 おじさんは立ち上がる。

 そして私に殴りかかってくるけれど、ウルズに襟首を掴んで止めてもらい――


「それはこっちの台詞だクソジジイ!!」


 思い切りビンタしながらも、失神するあの音を押しつけた。


「ふー……これで決着……で、いいかな?」


 大きく息を吐いた時、新たな人影が部屋に入ってくる。


「誰……!?」

「そう警戒しなくていい」


 入ってきたのは、お巡りさんだった。

 私がこのビルへと向かって走っている時に声を掛けてきた人だ。


「これは……何があったのかな?」

「お巡りさん! ここで倒れている人たち、このビルで死んだ人たちを隠して、怪談を仕立てあげてたみたいです!」

「なるほど、そういうコトか」


 うんうん――と、お巡りさんがうなずいた。次の瞬間……。


 パン……! という乾いた音が響き、私の太股に激痛が走った。


「ああああああ……!?」


 思わず膝を付く。

 顔を上げると、お巡りさんの手には拳銃が握られている。


 私の太股からすごい血が出て……。


 撃たれた?

 私、撃たれた? なんで?


 痛みと理解できない状況にパニックになりそう。


 だけど、この状況で私を撃つ理由なんて、一つしかない。


「お巡りさんも……グル……!」

「まぁそういうコトだ。

 全く、足がつくだけでなく、小娘にいいようにやられやがって」


 最悪だ。

 ちょっとこのパターンは想定してなかった。


 怪異じゃないけど、お巡りさんの姿を見て、偽りの光に手を伸ばしちゃったのかもしれない。

 正しき光は、まだ見えてないんだ……。


 なら――その光がくるまで……また時間を稼がないと。


「ほう、その足で立つのか」

「見習いでも……探偵ですんで……謎には立ち向かわないと」


 正直、ただの強がりだ。

 だけど、ここまで来たらできることをするだけだ。


「なるほどな……なら、もう少し上を撃とうか?

 心臓や脳を撃てば、さすがに立つのは無理だろ?」


 拳銃をチラつかせながら、勝ち誇ったようにお巡りさんが笑う。


「おやっさんたちが逮捕されるのは困るんだ。

 せっかく良い小遣い稼ぎになっているんだかさ」

「死んだ人を隠しておいて小遣い稼ぎとかよく言えますね」

「俺が殺したワケじゃないしな」


 ニヤニヤとそう言って、お巡りさんは倒れている人たちを軽く見る。


「お前はこのマンションの怪奇現象を利用でする方法を知ってるのか?

 そうじゃなきゃおやっさんたちがアヘ顔さらして倒れてる理由がわからないしな」


 それから、その顔をさらに醜い笑顔で歪ませて訊ねてきた。


「お前も一枚噛まないか? 良い小遣い稼ぎになるし、何より良い目に合わせてやれるぞ」


 よくもまぁ、このお巡りさんはそんなこと言えるなぁ……と感心する。

 だけど、感心するだけだ。


 私の答えなんて決まっている。


「人殺しとその隠蔽に荷担しろって? クソ喰らえだばーか」


 心の中で中指を立てて、私はそう吐き捨てた。

 次の瞬間――


 パン……!


 ――乾いた音が響いた。


 咄嗟に、ウルズで弾丸を防ごうとする。

 流石に所長さんのレオニダスのようには上手く出来ず、弾いた弾丸は私の左肩に当たってしまった。


「……痛ぅ……」


 弾道が逸れたことに怪訝な顔をしながらも、お巡りさんはこちらに銃を向けたまま、凶悪な表情を見せる。


「何にしろここで全員死ねば証拠隠滅になる」


 その発言に、私は出来るだけ皮肉っぽい顔で笑って見せた。

 痛いけど、泣きそうだけど、出来るだけふつうに振る舞って。


「それは無理。何せこの状況はライブ配信中だから」


 私の言葉にあわせて、鷸府田さんはわざとらしくお巡りさんへスマホの向ける。


「殺したあとでスマホを壊せば証拠隠滅になるだろうが」

「ならないんだな、これが」


 これ見よがしに銃を向けてくるお巡りさんに対して、鷸府田さんは挑発するよう笑った。


「ライブ配信だってその子が言ってただろ。これだから時代遅れのおっさんは。頭昭和かよ」

「ホラーで客釣って、人を殺さなきゃ人気を維持できない田舎に住んでる昭和脳なら仕方ないよ」


 鷸府田さんと一緒になって煽ると、お巡りさんの顔が真っ赤になる。


「テメェら全員ここで死ねッ!」


 お巡りさんが怒号をあげた時、酷く冷静でとても頼もしい声が聞こえてきた。


「やれやれ。そういう挑発はあまりスマートとは言えないな」


 直後に、銃が連続して音を立てた。

 だけど――


「防げ、レオニダス」


 放たれた弾丸は割って入ってきたその人と、その人の像によって防がれる。


「すまない。遅くなった」


 コートの裾を翻しながら、その人は視線だけをこちらに向けて、そう言った。



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