表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

その2


 本校舎の裏庭。

 ベンチは置いてあるし手入れはされているんだけど、なんか鬱蒼としていて、ジメっていて、ちょっと人気のない場所だ。


 私と綺興ちゃんは今そこへ来ている。


「それで、何がヤバかったの?」

「血の色をした妖精っぽいのがいたの。それが綺興ちゃんの足に絡みついた」

「人を転ばせる怪異?」


 この中庭は密談にはぴったりだ。ここなら、多少怪異や能力の話をしても聞き耳を立てる人は少なそう。


「違うと思う……血が欲しいから綺興ちゃんを転ばせる的なコトを言ってたし」

「血が欲しいから転ばせる?」

「うん。綺興ちゃんが転べば予知が事実になるとかなんとか」

「マジかー……」

「私もマジかー……って思ったけど……」


 直前にそういう話をしていたんだ。

 そこで血の色をした妖精が現れて、血を求めて、予知がどうこう言っていたなら、もうほとんど答えのようなモノだ。


「予血ペン。誰かが使ってるってコトだよね?」

「そうだと思う。そして予知ペンの正体は――」

「その血の色をした妖精……」

「うん。いくつか気になるコトはあるけど、十中八九は」


 綺興ちゃんが頭を抱えながら天を仰ぐ。


「手に入れたら使ってみようとは思ってたけど、マッチポンプかよー……」

「綺興ちゃんはそこを嘆くんだ」

「本当に予知してくれるなら、ちょっとお試しくらいはしたいじゃない?」

「まぁわからなくないけど……今使っている人が死んだりしたらー……とはならない?」

「手にした奴が勝手に破滅しようとも、正直わたしには関係ないなーって」

「そこはドライなんだね」

「自分とか友達とか家族とか? その辺りに影響が出てくるなら、ちょっと話は変わってくるけどさー」


 ふーむ……。

 綺興ちゃんの考えはともかく、私はどうだろう。

 

 予血ペンを使っている人をどうしたいのだろうか。


 助けたい……?

 いや綺興ちゃんほどじゃないけど勝手にすればいいって思うな。


 懲らしめたい……?

 それをする理由もないかな。別に何かやらかしているワケでもない。


 腹立たしい……?

 あ、これはちょっとあるな。綺興ちゃんがケガしそうだったし。


 ……あ、なるほど。私の感情的にはこれが近いのか。


「持っている人はともかく、私は予血ペンを叩き割りたいかも」

「おっと。存歌にしては過激」

「他人にケガをさせてマッチポンプを作るって何か腹立つし。

 あ、これだと持ち主も同じかな。他人がケガする予知を見てるのに、抗う気ゼロっていうのもなんだかなーって」


 うん。これもあるな。

 事前に、綺興ちゃんが転ぶって予知がされてたなら、多少は警戒して助けてみようとか思わないのか……みたいな。


「……そっか。これが探偵さんの言ってた、後天的に超能力とか手に入れると調子に乗る奴が多いって奴か」

「いやな予感しかしなくなる言葉だね……」

「本当にね」


 ともあれ、綺興ちゃんも私と一緒に予血ペンを探してくれることになった。


 それはそれとして、何かあった時の為に武器を見つけておいた方がいいかな?

 この裏庭に使えそうな音とかあったりして――


 ……あー……人目つかない場所だもんね。

 そういうお盛んなカップルとかいたんだね……。


 それにしても結構、絶倫っぽいな。そんな感じのフォントと音だ……。


 しかし最近、そんな音ばっかり見てる気がするよ……。


「どうしたの存歌?」

「ここ、独りの時に来たらダメな場所っぽいなーって」

「どういうコト?」

「性欲お化けみたいなのがいるっぽい? 襲われちゃうかも」


 実際は人間だけど、この方が綺興ちゃんも近寄らないでくれるはず。


「……わかった。近づかない」


 もちろん。私も今後は近づかないことにする。




 さて、密談の結果として――自習の予定は変更だ。

 お互いに次の授業の時間まで、一緒に学校内で予血ペンを探すことになった。


 ・

 ・

 ・


 まぁ、ペンはもちろん、持ち主も見つからなかったんだけど……。

 いやこれ、冷静になってみると探すの無理では?


 ・

 ・

 ・


 そうして、現在十七時半頃。

 授業を終えて食堂へとやってきた。


 帰ってどこかで食べてもいいんだけど、なんかもう面倒なのでここで夕飯。

 幸いなことに、ここの食堂は二十一時までやってるんだよね。

 なんでも、夜は教授や事務員さんたち向けでもあるんだとか。


 そこはかとないブラック感があるけど、まぁ徹夜で研究やら実験やらみたいなこともあるらしいし。気にしないでおこう。


 お昼時と違ってガランとしてるんで、席を取っておく必要はない。

 カウンターで卵綴じカツ丼とサラダを受け取り、トレイに乗せて、適当な席へと腰をかけた。


 結局、探しても見つからなかったんだけど、ペンの持ち主って、お昼の時点だと食堂(ココ)にいたんだよね。

 そうじゃないと、綺興ちゃんが転ぶという事実を確認できないワケだし。


「……あ、そっか。それなら」


 あのぴろぴろという音と文字は特徴的だ。

 能力で確認する時間を今日の昼頃にして、私は食堂を見回す。


 すると、ちょうど私が座っていた辺りにぴろぴろの音が踊っている。


「お昼にこの辺りに座っていた人――が、わかったら苦労しないか」


 そんなことを思いながら、隣の席の周辺に踊るぴろぴろという文字に触れた。


 血血血血血血血血血あの女気づいてた

 血血血血血血血血血あの女見ていた

 血血血血血血血血血あの女殺さなきゃ

 血血血血血血血血血予知しよう予血しよう

 血血血血皿血血血血女の破滅が君の幸せ

 血血血血血血血血血をちょうだい予血するよ

 血血血血血血血血血襲ってみよう犯してみよう

 血血血血血血血血血なぜか君の女になるよ

 血血血血血血血血血そして君は幸せになれる

 血血血血血血血血血ところで皿って字を混ぜてみた

 血血血血血血血血血それに何の意味があるの

 血血血血血血血血血特に意味はないよ


「…………タゲられてるじゃん」


 いや、どう考えても私だよね。狙われてるの。

 それと皿って、破滅がどうこう言っている妖精が混ぜてたよね。


 しかし『犯せば君の女になる』ってどういうことだろう。


 どっちにしろ、そんな予知がされたら、持ち主はどう考える?

 いやどうもこうも、他人がケガするかもしれない予知を聞いても、傍観するような人だしな……。


 まずいぞ、これー……。

 カツ丼食べたらとっとと帰ろう、うん。


 自分なりに精一杯の速度でカツ丼を食べて、お水をグイーっと一気のみ。


「よし」


 ドンと音を立てる勢いで、空のグラスをトレイに乗せた。

 トレイを返却口に戻し……綺興ちゃんとは合流予定がないので、大丈夫か。


 ……いや。Linkerにメッセージは入れておこう。


 内容は……そうだな。


《妖精たちに私の存在がカン付かれている》

《予知を利用して私に危害を加えてくるかもしれない》


 ……で、いいかな。

 なんか心配かけちゃうんだけど、入れておいた方が何かあった時に対応してもらいやすくなるはず。


 さて、あとは無事に帰れるかどうかだな。

 しばらくはちょっと学校くるの怖くなっちゃうけど、仕方ないか。


「あ、君」

「はい?」


 そうして食堂から出ようとする私に、男の人が声を掛けてくる。


「カツ丼食べてたよね?」

「え? あ、はい……?」


 その人は長身で結構イケメンだ。

 ただ何だろう。チャラそうというか、何人も女の子ひっかけてそうな感じ。完全な偏見だとは思うんだけど……。


 まぁ実際のところ、彼がどういう人格でどういう人物であるかは重要じゃないんだよね。


「なら、君が運命の人だ」

「頭大丈夫ですか?」


 思わず素で返答しつつ、私は目を(すが)めて彼の周囲を見る。

 彼の周囲を飛び回るぴろぴろという音と文字。そして飛び交う妖精たち。


 どうやら私は、妖精たちの攻勢開始前に逃げることを失敗したようである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~【書籍化】
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!~
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】レディ、レディガンナー!~荒野の令嬢は家出する! 出先で賞金を懸けられたので列車強盗たちと荒野を駆けるコトになりました~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
魔剣技師バッカスの雑務譚~神剣を目指す転生者の呑んで喰って過ごすスローライフ気味な日々
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ