【狂い昔話】ロケットロケット令嬢の休日
ロケットロケット令嬢の朝はツボの蓋を取ることから始まる。
ツボの中で変動している株価を、蓋を取って3人の家来に見せるのだ。
すると3人は驚いたような顔で「うおー!」と叫ぶ。
それを30分間行った後、株価を見せていた犬人間、猿人間、雉を連れて家を出る。大学へ行くのだ。
4人が歯を磨きながら歩いていると、前方から三色団子のような男が歩いてきて言った。
「あの、すみません! あなた可愛いですね」
「えっ!? ⋯⋯あ、はい、ありがとうございます」
突然のことであたふたしてしまうロケットロケット令嬢。
「あっ、声も可愛いですね!」
さらに追い打ちがかかる。
「きゃっ、お恥ずかしいっ!」
恥ずかしがる彼女を見ながら、三色団子がニコニコした顔で言った。
「身長と体重教えて貰ってもいいですか?」
「150cmです」
「そうなんですか? もう少しありそうに見えますけど、ヒールのせいかな?」
「え? チン長ですよね?」
どうやら身長をチン長と聞き間違えていたようだ。
「えっ、男性なんですか?」
いいえ、彼女は女性です。
「はい」
違うだろ!
「なんでですか?」
「えっ、何がですか?」
「男性である理由です」
「それは哲学的な話ですか?」
あの、ナレーションで女性って言ってるんだけど。もしかして聞こえてない?
「あ、ごめんなさい、女性でした」
やっと聞こえたようだ。
「ですよね、どう見ても女性ですもん。だから話しかけたんですよ」
「それにしても、なぜあなたはずっと股間を押さえているのですか?」
ロケットロケット令嬢が不思議そうに聞いた。
「スナイパーがいるのです。私のここを狙っている者がいるのです」
「草」
バカにした表情で言い放つと、3人の家来を連れてまた歩き始めた。ちょうどこのタイミングで歯磨きが終わったので、歯ブラシをそのへんに捨てた。
大学に行く途中にある喫茶店の前で足を止める4人。
「ここのコーヒーが絶品という噂を聞いております。ロケロケ様、寄っていきませんか?」
犬人間が提案した。
「遅刻するけど、そんなに美味しいのなら寄ってみましょうかね」
遅刻しちゃダメだろ。
「いらっしゃいませませ〜、こちらのお席にどうぞどうぞ〜」
なぜか2人席に案内される一行。
「仕方がないわね、猿人間、乗りなさい」
「御意」
ロケットロケット令嬢は猿人間を肩車して席についた。犬人間は雉を頭に乗せて座った。
「みんな何にする?」
「コーヒーで」
「僕も」
「オイラも」
メニューが決まったようなので、ロケロケはベルを連打した。
「はーい、ご注文お決まりですかですか〜?」
「うるせぇ!」
「えっ!」
「すみません、語尾がウザかったもんで⋯⋯」
「正直な子は好きよ。今度遊ばない? これ、あたしの電話番号」
雉と店員が仲良くなった。
頼んだメニューはコーヒーとコーヒーとコーヒーとコーラ。
「ロケロケ様、コーヒー飲まないんですか!?」
犬人間が驚いている。確かに、コーヒーが美味しいという噂を確かめに入ったはずなのに頼まないのはおかしい。
「私、実はコーヒー嫌いなのよね。だって苦くて酸っぱいし、なにより黒いのが気持ち悪いもの。なんであんなに黒いのよ、コーヒー。それを飲んでるお前たちもなんなのよ。妖怪黒汁啜り?」
「妖怪じゃないですよ、家来です」
雉が呆れている。
「キャーーーーーーーッ!」
「コワーーーーーーイッ!」
「タスケテクレェ!!!!」
あらゆる席から叫び声が聞こえる。
「入った時は気づかなかったけど、この店ヤバいわね」
「それだけ美味しいってことなんじゃないですかワン?」
「ヤバい粉でも入ってるのかしらね。それにしても、なんで急に語尾に『ワン』を?」
「読者が混乱するかなと思って」
「なにメタ発言してんのよ。それにあなた猿人間なんだから余計に混乱するわよ。せめて『ウキ』にしなさいよ」
「オイラたちの発言なんて全然重要じゃないから混乱してもいいピヨ。今回大事なのはロケロケ様ピヨ」
「犬がピヨピヨ言うなーーーーッ!」
やりたい放題である。
「で、雉はなんなの? 私雉の鳴き声知らないんだけど。コイツらみたいなノリで行くの? 『ウホ』とか?」
「バカ2人と一緒にしないでほしいザマス」
「ザマス!?」
「あ、コーヒー来たザマスよ!」
「私はコーラだけどね」
見た目は全部ただの黒い液体。そういえばお前コーヒーの悪口言ってる時に黒さのことも言ってたけど、コーラは黒くてもいいんだな。
「いただきま⋯⋯キェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
猿人間が叫びだした。ロケロケ令嬢は耳を塞いでいる。猿の下で聞か猿のポーズをとっているのだ。
「まったく、420円のコーヒーがそんな叫ぶくらい美味しいわけギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
犬人間までもが叫び始めてしまった。なんで2人とも喋り終わる前に飲むんだよ。制御効かないのか。
「2人とも怖いわよ。良かった、コーラにしといて。こんなふうにはなりたくないものねミピョーーーーーーーーーーーーーッ!」
「コーラもなのかよ!」
ザマスを忘れた雉が叫んだ。
「あービックリした。コーラがこんなに美味しいだなんて⋯⋯怖いわ」
やはり何かが入っているのだろうか。
「それにしてもあんた、なんで叫ばないのよ」
「私は鳥だからゴクゴクいけないのザマス。だから多分致死量⋯⋯じゃなくて、致狂量に達してないのザマス」
「なるほどピヨ」
正気に戻った犬が頷いた。間違えた、犬人間。
ひとしきり叫んだ後、一行は店をあとにした。
「怖かったわね」
「自分が自分じゃないみたいだったワン⋯⋯」
「でもあれで420円なら安いピヨね」
それから4時間歩き、ようやく大学についた。
「ちょっと遅いじゃないですか、ロケット先生!」
「ごめんなさい、家来がどうしてもコーヒーの美味しい喫茶店に行きたいって言うから仕方なく」
「そんな! ロケロケ様もノリノリだったくせに! ピヨ!」
「そうなんですか? ロケット先生」
「私を疑ってらっしゃるんですか? ミジンコハゲボケゲボゲリ先生」
「まぁ、少しは」
「じゃあ私の口の匂いを嗅いでみてくださる? コーヒーは匂いが強いでしょう?」
いい歳こいた大人が朝から面白い光景を見せている。
「確かに、コーヒーの匂いはしませんね」
「だから言ったじゃないですか」
「彼らは嘘をついたことになりますね」
「ですね」
ミジンコハゲボケゲボゲリが鬼のような目つきで3人の家来を睨んだ。
「ミジンコハゲボケゲボゲリが睨んでやがるピヨ〜」
「ぷーくすくす! なんて顔してんだワン!」
「オーッホッホッホッホ! 恐ろしい顔!」
雉が月影先生みたいになってる。
「さぁさぁ喧嘩はそのへんにして、会議行きますよ!」
場を収めたのはロケットロケット令嬢だった。
☆殺人会議☆
「これより、殺人会議を始めます。意見のある人は手を挙げてください」
経済学部の学部長であるミサちゃんが手を挙げた。ミサちゃんは58歳のおじさんである。
「なんで殺しちゃダメなの?」
それに対していつも研究室にこもってAVばかり観ている僧侶・殺殺 小初音が言った。
「相手が死んじゃうからに決まってるだろ!」
「だからダメなの?」
「君も捕まっちゃうんだぞ?」
「僕も捕まっちゃうの!?」
「そうだよ、捕まるよ」
ミサちゃんは動揺し、固まってしまった。
「僕も捕まっちゃうから⋯⋯殺しちゃダメなの?」
そんな議論が4分ほど続き、会議は終わった。
「さて、仕事仕事ーっ!」
ロケットロケット令嬢は自分が受け持っている海賊学の講義をしに、この大学で1番広いマイクロホールに向かった。
「みんな、おっはよー⋯⋯あれ?」
マイクロホールには、学生の姿が1つもなかった。
「えっ?」
「ロケロケ様、そういえば今日って⋯⋯」
「えっ、あ! そうか! 今日第3蟹曜日か!」
「なんということ! 休海日ピヨ〜!」
説明し尿! 休海日とは、週に1度設けられている、海賊共通の休日である! とは言っても戦っていいし、略奪してもいいぞ! 余談だが作者は今、グラコロのキャベツが喉に引っかかってとても不快な思いをしている!
ざまみろ! じゃないよ! なんでそんな冷たいんだ! まぁ冬だから仕方ないか。
「すみませーんせーん!」
むむ、この語尾は!
「あなたはさっき雉を誘惑した喫茶店の店員さん! なぜここに!?」
「いや、あなたお会計まだでしょ」
「あ」
そう、ロケロケはまだ代金を支払っていなかったのだ。
「鼻くそ払いで」
「はい」
1680グラムの鼻くそを店員に手渡すと、ロケロケは研究室に戻った。
「クソっ、今日来なくても良かったじゃーん! なんで私の講義だけ謎の休みがあるんだーっ! キモいよ〜〜〜〜〜〜〜」
急に暇になると人は何をしていいか分からなくなるものである。
その日ロケットロケット令嬢は一日中鼻をほじり、そのすべてを鼻くそ募金に回したそうだ。
彼女は後日、日本鼻くそ協会にて表彰されたという。めでたしめでたし。
なんか叙述トリックみたいなの出てきたね。