ひきこもりダンジョン ~世の中が嫌になったので地下迷宮の中に引きこもってスローライフします~
「快適だ……」
地下迷宮の奥深く。
自分用の生活空間の中で迷宮所有者はくつろいでいた。
ある日突然、世界中にあらわれた地下迷宮。
それと共に人々が手にしたレベルアップと特殊能力獲得。
これらが世界を一変させた。
人々は地下迷宮に挑み、そこにはびこる怪物をたおすことで。
あるいは地下迷宮の奥深くにある迷宮核を破壊する事で大きな力を得るようになった。
その結果、科学文明とは別のあり方を模索・構築するようになっていく。
だが、それが全てを幸せにしたわけではない。
横暴な性格・人格の人間というのはいまだにのさばっている。
そういった者達が他の者を圧迫し、傷つける事は変わらない。
個人がレベル上昇や特殊能力獲得で絶大な力を得られるようになって、これはより大きく表に出るようになった。
人類社会はあいもかわらぬ弱肉強食を絵に描いたようになった。
そんな社会に嫌気がさした者は多い。
それでも世の中から逃げ出すことも出来ず、最底辺を這いつくばっていく。
この迷宮所有者もそうした者の一人だった。
そんな彼が求めたのは静寂。
一人になれる空間。
他人というわずらわしい存在からの隔絶。
それが出来る場所と、それを維持できる能力だった。
そうして行き着いたのが、迷宮の所有者になる事だった。
地下迷宮はある日突然あらわれたものだ。
だが、人がそれを作れないわけではない。
獲得できる数多くの特殊能力。
身体能力の向上や、知的・精神能力の上昇などなど。
さらには魔術や超能力といったものまで、ありとあらゆる能力がある。
これらを獲得する事で、人はレベルとは違った能力に開眼していけるようになった。
その中の一つにあるのだ。
『迷宮の主』というものが。
迷宮の主。
文字通り迷宮の主になれる能力。
これを手に入れれば、迷宮を作り出し、その所有者になれる。
発見された当初は、これに大きな希望を抱く者が続出した。
しかし、すぐに廃れるようになる。
確かに迷宮を作り出し、その主になる事は出来る。
しかしそれは、迷宮攻略を求める者達の標的になる事でもある。
迷宮探索者と呼ばれる者達が押し寄せる事になる。
その結果、数多くの迷宮が攻略された。
それと同時に分かった事がある。
迷宮攻略がされると、迷宮の主は死ぬ。
この事が知れ渡るようになると、『迷宮の主』という特殊能力は使えないものとみなされるようになった。
たとえ自分の居場所を作っても、殺されてしまってはかなわない。
まして作りたての迷宮はとても弱い。
さほど広くも無い小さな迷宮は簡単に攻略できてしまう。
そんなところに大量の探索者が押し寄せたらどうなるかは一目瞭然だ。
命がけで居場所を作るほど覚悟の決まった人間はそうはいない。
それでも、ほんの一時。
一瞬だけでもいいから世間から切り離された場所が欲しいと望む者はいる。
そういった者達だけが、世間に絶望した者達のみが新たな迷宮の主となっていった。
この迷宮所有者もその一人だった。
一瞬でいい、わずかな間だけでもいいから一人でいたい。
世の中から切り離された場所にいたい。
自分を虐げるクズ共から逃げ出したい。
そう思って『迷宮の主』を獲得、発動させた。
慎重に慎重を重ね、決して他に知れ渡る事のないように配慮した。
いずれ探索者がやってくるにしても、それまでの時間を少しでも先延ばしに出来るように。
たとえ気取られても、攻略に手間取るように迷宮を作りもした。
おかげで迷宮は順調に成長。
そこそこの強さの探索者が来たくらいでは攻略されない場所となった。
そんな迷宮の奥深く。
自室の中にこもった迷宮所有者は、考え得る贅沢を楽しんでいた。
巨大なスクリーンに好きなアニメを映し出し。
本棚には漫画・ラノベ・同人誌をずらっと並べる。
もちろん、一般向けもエロも合わせて楽しんでいる。
おまけに、規制や弾圧、悪法のせいで居場所を失った創作者らも確保した。
この者達のおかげで、新作に困る事は無い。
いまでは他の迷宮所有者にも、魔法のインターネットを通して供給すらしている。
迷宮の中には当然ながら、エロ表現弾圧もポリコレもない。
創作を愛する全ての者達にとっての楽園がここにあった。
それだけではない。
召喚した見目麗しい女型モンスター。
各種妖精から、ハーピー、ナーガ・ラミア、スキュラといった半人半獣まで。
さらには竜や鬼といった神にまつられるような存在まで。
あらゆる美女を召喚してはべらせている。
これを迷宮所有者だけが独占してるわけでもなく。
希望者には配偶相手として提供してもいる。
人間の女に興味をもたない者達にとってのパラダイスが出現していた。
こういった者達を養うための田畑や牧場も迷宮内に作られている。
外に出る必要がなくなっている。
外部との接点を完全に断ち切る事が出来るようになっている。
実際、望んで逃げてきた者達で外に出ようという者は皆無だった。
無駄に厳しい現実にどうして戻る必要があるのか、と誰もが考えていた。
そんな楽園の奥深くで、迷宮所有者は今日ものんびりと過ごしている。
理想的な引きこもり生活を楽しみ、ようやく得られた平穏の中にいる。
自分で作った子供部屋の中で、最高の人生をおくっている。
ここには、人間関係を強要する誰かもいない。
イジメという犯罪をおこす者もいない。
強制参加のバーベキューや、林間学校・修学旅行・社員旅行もない。
意識の高いと自称する政治思想も主義主張もない。
自分一人でいられる理想的な空間がここにある。
その空間を誰もが適当に楽しんでいた。
自分の好きな事だけやる。
嫌いな事や興味の無い事はやらない。
誰もが好き勝手にやって、それが他の誰かの求める何かを作る事になっている。
意識しない協力体制、共同体が出来上がっていた。
迷宮所有者はそんな場所を提供していた。
みかえりに、自然発生的に生まれてくる新作漫画・ラノベ・アニメ・その他を移住者から受け取っていた。
互いに必要なものを提供し合う、理想的な取引関係だ。
日本の歴史に出て来る、ご恩と奉公の関係に近いかもしれない。
そんな迷宮で誰もが享楽と怠惰にふけっている。
そうしながら理想的な共生関係を作り上げている。
たまに迷宮攻略にやってくる野蛮な連中を撃退しながら。
そんな平和な迷宮世界の中で、迷宮所有者は幸せをかみしめていた。
社会というろくでもないものから解放されて。
迷宮と一体化した迷宮所有者は、それから長い時を生きることになる。
その間に迷宮は更に巨大化・強力になっていく。
誰も打ち破れないほどに強靱に。
多くの迷宮探索者が攻略を諦めるほどに。
その時、ようやく迷宮所有者と迷宮の住人は安寧を得る事が出来た。
「これで漫画とアニメを楽しめる」
「ラノベもな」
「新作イラストも出来上がるぞ」
そんな声があふれるようになっていった。
迷宮の中はそんな調子でとても平和だった。
その後もずっと、永遠に。
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