ミッション2:バスケのビブスを奪取せよ! その2
「いっつも悪いね!手伝ってもらって!!」
相変わらず、田中さんは元気だ。
部活のマネージャーを一生懸命頑張っている。
今、バスケ部は練習中。なので田中さんはドリンクを用意したり、ボールを用意したり、その他もろもろ全て一人でテキパキとこなしていた。マネージャーとして、いやきっと仕事してもすごく優秀な人なんだろうな。ボクはそれをバスケの練習を見るフリをしながら、見よう見まねで田中さんを手伝っていた。
そういえば、そもそもなんでマネージャーは一人になっちゃったんだっけ?
普通はもう1人2人ぐらい、いそうなものだけど。
聞いていいかどうか分からなかったけど、田中さんのトークにむりやり質問を差し込んで聞いてみた。
「先輩が引退しちゃって!でね、他にもマネいたんだけど『ついていけない!』って急に言って全員辞めちゃったんだ!」
そういうと田中さんは心底不思議そうな顔をしていた。まぁこんだけ大変ならついていけないって思うのも分からなくもない。でも全員って確かに少し変だね。
「人がいないからさぁ!渡辺くんが手伝ってくれるの、ほんっっっっとに助かるぅ!!!」
「どういたしまして…」
裏の目的があるとは言いにくい…と思っていると、田中さんが立て続けに言ってきた。
「いっそ、もうマネージャーにならない?」
答えに困った。でも…
マネージャーかぁ。
悪くはないかもしれない。
実際に練習するのが大変なのはサッカー部で分かった。たぶん他の運動部も同じだ。運動部以外で入るほど興味のある部活もない。だったら、いっそマネージャーってのもいいのかなぁ。田中さんみたいに部活のみんなを支えながら、練習メニューを相談したり、色んなことをするってのはやりがいあるかも。しかも田中さん、結構かわいいんだよな。話し続けるのはどうかと思うけど、会話が成り立たないほどじゃないし。あっでも、仲川くんが好きなんだっけ。んー。
「そういえば!!」
ボクの返事を待たずに田中さんが話題を変えてきた。
そろそろこういうのも慣れてきた。
「渡辺くんって柔軟剤何使ってる?」
じゅ、柔軟剤?とは?あれか、洗剤と一緒に?入れるヤツ?たしか『香りがすごい!』みたいなCMで言ってるやつだよね?んー何使ってるとか言われても気にしたことないな。にしても本当に唐突だなあ。
「あっ、そうか。お母さんがやってるから知らない!ってやつね?男子だね~。」
「っあ、あぁ、そ、そうだね。」
またもや田中さんはボクが答えを返す前に、答えを出してきた。
早押しクイズとか出たら、優勝するんじゃないか?
「私ね!今着てる服のコレ!この柔軟剤の匂いが最っっっ高に好きなの!」
そういうと、田中さんは自分の体操服をぴこりと鼻元に寄せて、すぅと匂いをかいだ。
「んっ~~~~、良いかおり!」
その様子を見て、ボクはふと思い出した。
ある人物を思い出した。
思い出して、時計を見た。
あぁそろそろか。
「ん?どうしたの?」
ボクの少し焦った様子を見て、田中さんが一瞬疑問符を浮かべた。
顔に出てしまったことで更に焦った。
ツッコまれて、田中さんに答えを先に言われたら…
「あっ!紅白戦終わった!!」
と思ったら、田中さんはマネージャーの顔に一瞬で戻った。
紅白戦が終わったら、クールダウンしてすぐに片付けに入る。そこでビブスを回収することになる。田中さんは『おつかれさまで〜す』と声をかけながら、テキパキと準備を進めた。
ホッと一息を入れている選手。
クールダウンが終わり、顧問の挨拶で部活終了。
そして、回収されるビブス。
田中さんと一緒にボクは回収を手伝った。
さすがに使用直後の汗はすごい。
回収が終わった頃、バスケ部全員の動きが止まった。全員が体育館の入り口を見ていた。固まっていた。
時間にして5秒ちょっと。
1時間にも感じる5秒が過ぎた後、せきを切ったように、体育館にざわめきが広がった。
うん、そう、そうだ、予定通りだ。
入り口にいた女性。
美しい髪をなびかせて、こちらに向かってくる美しい人。
遠目からでもわかるスラリとした肢体。
近づくにつれ、切れ長の目や整った顔立ちに誰もが惹きつけられてしまう。
会澤さんだ。
『おい、あれ誰だよ?』『くっそキレー』という周りの声が次第に大きくなる。そのうち『あれ1年の会澤って言うらしいぜ』という声も聞こえてきた。
会澤さんは、スッとバスケ部の方に近づいてきた。バスケ部の全員がざわめいた。何しに来たんだ?誰に用だ?と。
「あれ、だれ?」
会澤さんが近づいてくるのを、ボクは田中さんと並んで見ていた。すると田中さんがボソリと呟くように聞いてきた。ボクへの質問かどうか、すぐに分からないくらいに。
「ボクと、同じクラスの、会澤さん…」
一応、答えてみる。
反応は…ない。
ボクは田中さんの方をチラリと見た。
田中さんは固まったまま、ぼう然と会澤さんを見ていた。まるでテレビの中から長い髪の女性が現れたのを眺めているように。
そのうち、会澤さんは持ってきたペットボトルをバスケ部の部員に渡して始めた。
もちろんボクは会澤さんが何をするのかを知っていた。
これが今回の作戦だからだ。
会澤さんが田中さんと一緒にペットボトルを配っているすきに、ボクが一人でビブスを運ぶフリして、新しいビブスと交換する。
名づけて、ドリンク誘導作戦!!!
……
……
ボクには絶望的にネーミングセンスが無い…
いやいや!
ネーミングなんてどうでもいい!
ボクはポケットにつっこんでいるビブスを確認した。さぁあとは田中さんに声をかけて…
「田中さん…なんだか差し入れみたいだね?一緒に手伝ってあげ_」
ボクは田中さんに声をかけて誘導しようとした。田中さんを見ると、田中さんは下をうつむいていた。少しギリギリと歯ぎしりのような音がする。き、気のせい?
「た、たなか、さん?」
ど、どうしたの?田中さん?!
人が少ない、手伝ってほしいって言ってなかったっけ?あれ?ここで、ほら、会澤さんと一緒に、みんなどうぞ〜なんて、一緒に配って_
「お…」
お?今、田中さん『お』って言った?
ボクが田中さんに改めて声をかけようとした、その時__
「おんどりゃーー!!!!」
えっ?!
横にいる、田中さんから、突然大声が上がった。周りが一斉にこちらを向いた。
田中さんは、顔を真っ赤にして会澤さんを見ていた。いや、睨みつけていた。歯を剥き出しにして、ギリギリと音が聞こえてくる。というか、この人、田中さん?でいいの?
雰囲気違う!違いすぎる!!
「た、たなかさん??!!」
ボクが慌てて声をかけたが、田中さんはボクを見向きもしなかった。
「私が!!私の!!その位置は!!」
体育館の中に、怒号が響き渡る。
気のせいか、田中さんの口もとから白い息が出ているような…
田中さんというより、阿修羅って感じだ。
いや、何を冷静になってんだ?ボクは。
田中さんが何を怒ってるのか分からないけど、鎮めなきゃ。怒りに我を忘れているわ!なんて。
「そこはぁ!!!あたいのもんやぁーー!!!」
ボクが対応を考えてモタモタしてる間に、田中さんは更に叫び声をあげた。
それだけではなく、会澤さんに向かって、走り出した。
「ガァァ!!」
雄叫びと思える音を発しながら、田中さんは会澤さんに突進する!
あっ!ヤバい!
止めなきゃと我に返り、追いかけようとした。が、ふだん運動していないボクが追いつけるはずもなく…
あっ!会澤さん!
あと数歩で田中さんが会澤さんに手が届く、と思った瞬間、バスケ部のメンバー数人が行く手を遮った。そして後ろから、田中さんを羽交い締め。
田中さんはそれでも前進しようともがいていた。バスケ部のメンバーの阻まれながら、ぐにぐにと田中さんはもがいていた。
「私の!私が!」
その言葉は聞こえるのに、それ以外の言葉は意味をなす単語には聞こえなかった。こういう時って『ふじこふじこ』っていうんだっけ?
ボクは頭を振った。そんなこと考えてる場合じゃない!
ど、どうしよう…
やっぱりボクも田中さんを止めた方がいいんだろうか。
そう思っていると、会澤さんが物憂げな表情でこちらを向いた。
アイコンタクト。会澤さんからのメッセージ!
『コッチは大丈夫!』
『渡辺くんは例のものを!』
ボクはそう受け取った。
…分かった!!わかったよ!!会澤さん!!
気持ちは受け取ったよ!!
ボクは行く!!会澤さん!!
私を置いて先に行け!とダンジョンで仲間に言われたように、ボクは会澤さんも田中さんも置いて、ビブスを持って部室に走った。
君たちの犠牲は無駄にしないよ!!!
(注:死んでない)




