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ミッション2:バスケのビブスを奪取せよ! その1

「渡辺くんがバスケ好きだなんて意外!」


 そんなことを言われるのは、サッカーに続いて2回目です。

 ボクに話しかけてきたのは、田中(たなか)玲奈(れな)さん。

 バスケ部のマネージャーだ。

 確か隣のクラスの子で、話したことは今までなかった。背はボクより少し小さいくらい。短めの髪で、キレイというよりカワイイ人だ。


「やっぱりバスケって最高だよね!展開早いし、スリリングだし!ブザービーターが決まったりなんかしたら、もう!!最っっ高ぅ!!」


 ボクと田中さんは、今バスケ部の道具を片付けて、部室に運んでいる最中だ。部室に運んでいる田中さんに『大変そうだから手伝うよ』と声をかけて、一緒に道具を運んでいる。最初は警戒されるかなと思ったんだけど、バスケ興味あると言ったら、手伝うのを許してくれた。

 それで一緒に歩きながら、話しているわけですが…


「もちろんMBAもいいんだけど、最近B.LEAGUE見てて!川崎ブレイブサンダースの増田選手って知ってる?ちょーーカッコよくて!!でね?先輩の__」


 さっきから田中さんは、ひたすらバスケの魅力を語っている。

 今はだんだんと誰それ選手がカッコいい、部の誰それ先輩が素敵、みたいに話が流れた。

 ボクが運ぶの手伝うよ、と言ってから、彼女はずぅっっっと話している。まるで話す相手が今までいなくて、溜まってたものが吐き出されたみたい。いったいどれだけ溜まってたんだろう。


 ところで、なぜにボクがここにいるのか。

 そしてなぜに田中さんとバスケ部の道具を片付けているのか。


 それはもちろん会澤さんに言われたから。

 前回、仲川くんのソックスを持っていった。しかし会澤さんは『コレでは足りない』というのだ。

 どうも会澤さんの中で、匂いへのこだわりがあるらしく『少し違う』『土の臭いは邪魔』とのことだった。で、新たに言われた指令(ミッション)が『バスケ部のビブス(汗付き)を手に入れろ』だった。

 ユニフォームは、さすがに手に入れるのが難しいと会澤さんも思ったのだろう。ゼッケンのついた一般的なビブスでいいと言ってくれた。


 それじゃあどうやって手に入れるか。

 もう『体験入部』の時期は終わってしまった。それに練習に参加すると、自分の体力が尽きてしまい、失敗することも分かった。同じ轍は踏みたくない。


 前回の反省を踏まえ、会澤さんは今回から一緒に作戦を考えてくれることになった。

 考えたのが、バスケ部のマネージャーと仲良くなることだ。バスケ部のマネージャーなら、ビブスを洗濯することもあるだろうし、手に入れやすいんじゃないか?ということになった。

 そこでボクがバスケ部のマネージャーに接近して手に入れるスキを見つけようというのが大まかな作戦だ。


 それにしても、会澤さんの『理想の匂い』にたどり着くまで、ボクはずっと手伝わされるんだろうか?想像してボクは少し身震いした。


「ありがとう!!運ぶの手伝ってくれて!」


 ボクが妄想にひたる直前に、部室に到着した。あぶない、あぶない。


 今回(田中さんがずっと話していたので)あまり話を聞くチャンスはなかったんだけど、何とか聞けた話と部室をのぞき見して分かった。


 ビブスを手に入れるのは、かなり難しい。


 部活が終わった後、脱いだビブスをマネージャーが回収する。今マネージャーが田中さん一人しかいないらしく、ようは田中さんが回収する。

 部室に持っていった後は、洗濯して、部室の中で陰干しする。部室には鍵がかけられるので、忍び込むことはできない。

 それ以前に、着る前や洗濯した後では意味がない。

 となれば、ビブスを回収して、部室に運ぶまでの短い時間、約10分くらいの間に、何とか奪取(新品と交換)するしかない。しかも田中さんの目を盗んで。


 ボクは挨拶をして田中さんと別れた。

 ソックスの時より綿密に作戦を立てなければならないのかなぁ。

 いい方法はまだ思いつかなかった。


 ◇◇


「よう!まこと!」


 お昼をボーッとしながら食べていると、声をかけられた。唐突に声をかけられると、ビクッと震えてしまう。


「はっ、はい?!」

 声の主を見ると、仲川くんだった。

 あんなことがあったんで、ソックスをもらった翌日は、仲川くんと顔を合わせるのを意図的に避けてしまった。

 無視されたり、噂なんかを流されるかなと、色々と悪い妄想して過ごしていたんだけど、何日経っても、そんな妄想が実現することはなかった。

 むしろ、それから仲川くんは事あるごとにボクに話しかけてくるようになった。まるで旧知の友だちのように。しかも気がつけば、呼び方が『わたなべ』から『まこと』に変わってる。


「誠!大丈夫か?ボーッとしてるけど?」

 仲川くんが心配そうに聞いてきた。爽やかさ(イケメン)はいつも通りだ。


「うん、大丈夫…」

「そうか!まぁいつでもサッカー部、来ていいからな!」

 そういうと、仲川くんはボクの肩をぽんと叩いた。いつも通り?うん、たぶんいつも通り、のはずだけど。


 ボクは仲川くんに返答するのに困って、お昼ごはんを再び食べ始めた。すると、仲川くんは少し話しづらそうに、話しかけてきた。


「他のやつに聞いたんだけどさぁ_」

 何だろう、仲川くんが言い淀むって珍しい。ということは、例のソックスの件だろうか。やっぱり返せとか…そう言われたらどうしよう…今更返せないし…

 ドキドキしながら仲川くんの言葉を待った。

 仲川くんは少し意を決したように、口を開いた。


「その…バスケの手伝いしてるって、ホントか?」

 えっ?そっち?

 確かに、ここ1週間ぐらい田中さんを手伝っている。暇だから、と言って。


「バスケ部のマネージャーと仲良くしてるって噂を聞いてな?」

 そういうと、仲川くんは少し恥ずかしそうに、語尾を濁しながら小声で言ってきた。


「あの、その、田中さんのこと、好きなのか?」


 あぁ〜、そういうことかぁ。

 ボクは納得した。

 仲川くんは、田中さんみたいなのがタイプなのね?で、ボクが仲良くしてるから、気になって聞いてきたと。仲川くんの意外にカワイイ面を見てしまった。

 でも、そんな心配はまったくの杞憂だ。比べるまでもなく、どー考えても、ボクと仲川くん、モテるのは仲川くんの方だ。

 コレは言ってて悲しくすらならない現実だ。

 だから、仲川くんが心配することは微塵もない。そうだ、微塵もないのだ!あれ?目元に汗が…


 それはともかく、変な噂を流されても困るし、会澤さんとの計画に邪魔が入っても困る。ここはちゃんと説明しておかないと。


「いやいや!そんなことないよ!」

 ボクは精いっぱいのジェスチャー込みで否定した。

「たまたまバスケ見たくって、田中さん一人で大変そうだったから、手伝っただけだよ。」

 精いっぱいの笑顔も追加。引きつったものでなかったことを祈りたい。


「そ、そうか!そうだよな!ははっ。」

 仲川くんは、焦った笑顔を出してきた。無理やり作ったのは仲川くんだった、みたいな?

 安心したように、仲川くんは『じゃ!』と去っていった。

 それにしても、ソックスについて聞かれなくて本当に良かった。他のクラスメイトに聞かれても面倒だし。


 ボクはお弁当のミートボールを口に放りこんだ。

 ん?でもボクがバスケ部の手伝いしてるって誰に聞いたんだろう。バスケ部の人かな?まぁ部外者が出入りしてたら、言われてもおかしくない、のかな?


 疑問を感じながらボクが玉子焼きを一口で食べると、ふと教室の前方から視線を感じた。

 ゾクッと背すじに冷たいものを感じる。

 詰まりそうになりながら、ボクは玉子焼きを咀嚼してゴクリと飲み込んだ。そして前方をゆっくりと確認する。


 一番前の席、窓際の席。

 友だちに囲まれて談笑している人。

 美しい顔がこちらを向いていた。

 チラリとボクに目線が飛んでくる。

 と同時に、心臓の鼓動が一拍分早くなるのを感じた。

 まだ少し慣れない。

 会澤さんからのアイコンタクト。

 時間にして3秒に足りない時間。

 一瞬ともいえる時間。

 でも会澤さんの意図はつかめるようになった。

 ボクは頷くともいえないくらいの返答を返した。

 今日の放課後、会澤さんとの作戦会議だ。

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