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許していいこと、伝える青年

 とある病院の病棟のある一室、そこでフィリスと男は話をしていたーー



「ねぇ、そう言えば貴方の名前はなんていうの?」

「そういえば言ってなかったね。……僕の名前は笹木静、よろしくね」

「ささき、しず……いい名前だね」


 初めて聞いた恩人の名前に、フィリスは思わずそう呟いた。


「ありがとう。……それで、君の名前は?」

「私の名前はフィリス・グレンハート」

「いい名前だね」

「でしょ!お父様とお母様が名付けてくれたの!」


 名付けるのが下手な彼女の父は母と共に何時間も考えた。

 そして長考の末、フィリスという魔神語で慈愛や融合といった意味のある言葉を名付けたのだ。


 ――フィリスという単語が彼女の父の一番の得意魔法の詠唱の一部に含まれている事を彼女の父以外知ることは無かったが。


「ところで……もう傷は大丈夫なのかい?見たところ無理をしている感じでも無いし……」


 静は楽しそうにはしゃいでいるフィリスの姿を見て疑問に思った。


「うん、全然大丈夫だよ?傷もちゃんと消えてるし、胸の傷も、塞がっているよ」


 そう言いながら彼女は服を脱いで傷を受けたところを見せようとする。


 その状況はまずいと咄嗟に判断した静は慌てて止めに入る。


「大丈夫!見せなくていいからっ!」

「そう?」


 静はそう言って脱ぐのを止めたフィリスを見て、ふぅと胸を撫で下ろしたのだった。


「それにしても、治るのが早いね。3日位でそんなに治るなんて、正直異常だよ?」

「異常じゃないと思うけどなぁ、まぁ私はタフさと回復力には自信があるけどねー」


 それを聞いた静は、自信があるというレベルじゃないよ……と静は心の中で苦笑したのだった。


「でも、ここの人間は応急処置が完璧だったから助かったと言っていたよ。……だからありがとう、静」

「ん?別にいいよ。僕は出血を抑えたりしていただけ、最終的にフィリスさんを助けたのはここの人なんだから」



「――フィリス」

「え?」

「フィリスでいい。さんは、いらない」


 突然そう言われた静は少し戸惑ったが、少しむっとした表情をしているフィリスを見て、


「分かったよ、フィリス」


 そう言うのだった。


 そして、それを聞いたフィリスは満足そうな表情を浮かべて


「うん!」


 と、言ったのだった。


 それからしばらく二人で喋っていたのだが、静は所々で常識レベルのことをフィリスが知らない事がだんだん不思議に思い始めて、ついに話を切り出したのだった。


「もしかして、フィリスって不思議ちゃん?」

「不思議ちゃん!?……いきなり何を言うかと思ったら変な事を聞くね!?」


 突然そんな事を言われ、フィリスは少し困惑していた。……楽しそうに。


「いや、携帯電話の事も電話番号の事も知らなかったし、出会った時なんか尻尾とか角を付けて、コスプレしてたし。……キャラになりきっている不思議ちゃんでは無いのかと……」

「ど直球で聞いてくるあたり、さては静はてんねん……とかいうやつだな!?」


 フィリスはそう言いながらチョンチョンと静をつつく。


「……僕も少しはそういうところがあるかもしれないけど、というかそのせいで先日仕事を首にされた訳だけど!……それでもフィリスの方が僕よりよほど天然だと思うよ?」


 けっこう無意識にまずいことしているし……。


「そう?」

「うん。……で、結局フィリスは不思議ちゃんなの?」

「違うよー!静も面白いこと言うねー。……あっ、でもそっか静は知らないのか」


 フィリスは何かを思い出した様に手を叩いた。


「あの角と尻尾……本物だよ!」

「そうなんだ……って、そんな訳ないでしょ!?」


 ありえない事を言われまたもテンションがおかしくなってしまう静。


 しかし次の瞬間、彼は信じられない光景を目にする。


「《隠蔽解除》」


 フィリスがそう言うと、突然角と尻尾が姿を現した。


 ーー本当は隠されていたものが見えるようになっただけなのだが静の目にはそう映った。


「うわっ!何これ!?……どうなってるの!?」


 当然静はありえないものが、信じられないものが突然現れたので、驚いた。


「何って、私の尻尾と角だよ?前見たでしょ?」


 そう言いながらフィリスは尻尾をくいくいと動かして見せる。


「そ、そ、それは本当に付いてるやつ?」

「引っ張ってもいいよ?取れないから」


 そう言いながらフィリスは反対向きに寝転がり、尻尾を静の方へ向ける。


「じゃあ、遠慮なく……」


 静は意を決してフィリスの尻尾を掴んだ。


 すると、フィリスが変な声を上げて悶え始めた。


「ひゃうっ!」

「え?……何、どうしたの?」

「く、くっ、くしゅぐったい!」

「へ?」


 静はフィリスが思いもよらぬ事を言い出すので焦って手を離した。


「ご、ごめん!」

「う、うん。私もまさかこうなるとは思ってなかった。……でも、これで本物だって伝わったよね?」

「信じられないけど、本物なんだ……ね?」

「なんで最後疑問形なの!?」


 フィリスは静の反応に納得がいかない様子で、むっと顔を膨らませる。


 それを見た静は咄嗟に


「いやごめん!……そういうのを持っている人間なんて見たこと無かったからさ」


 と弁明した。


 フィリスはその弁明に対し、思わず笑ってしまった。


 そして


「静ってやっぱり面白いね〜」


 と、笑いながら言った。



 当の本人である静は何がなんだか分からずにポカンとしていたが……


「こんなのが付いていたらそれはもう人間じゃないじゃない」


 というフィリスの言葉で、さらに頭の中を掻き回された。

 

「まぁ、そりゃそうだけど……フィリスには付いてるじゃんか?」


 そして、こうやって疑問を口にした訳だが。


「え?……あぁ、そう言えば言ってなかったよね。私は魔族だよ。しかも、魔王の娘!……驚いた?驚いたでしょ!」


 魔族という単語がいきなり飛び出してきて、さらには魔王の娘とまで目の前の少女は言い切った。


 さっきまでなら信じることができなかったが、尻尾が本物だと分かった時点で何が嘘で何が本当なのか分からなくなってしまった。

 それ故に彼は



 は、はは…………。



 と、心の中で苦笑しつつ信じるしかなかった。


「うん、驚いた。驚きすぎて考えるのも馬鹿らしくなってきた。

 ……ねぇ、フィリス以外にも魔族っているの?」


「魔族は……分かんないな。この世界には私しかいないかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 だけど、元の世界には……もう片手で数えられるほどしかいないだろうね…………」


 静は悲しそうな表情でそう答えるフィリスを見て、軽い気持ちで質問した自分を責めた。


 フィリスの答えの中に「元の世界」という言葉が含まれているという事は、おそらくフィリスはこことは違う世界からこの地球の日本という場所へやって来たという事だろう。

 そして、話を聞く限り「元の世界」で何か大きな争いが起きて、逃げ込んで来たと見るのが妥当だと思う。


 何にせよ、彼女にここまで悲しそうな顔をさせる出来事が起きたのは確かだろう。



「辛かったんだね……」

「……うん、辛かった。辛かったんだよ…………。みんな、みんなが居なくなっていって……私が力になれなかったばかりに」


 今までの話をまとめて考えると、仲間が、目の前で沢山死んでいったのだろう。


 そして、それを救うことのできなかった自分に負い目を感じ、責めている。


「……フィリスは悪くない。自分を責めるのは間違っているよ」


 静はゆっくりとした口調でそう言う。そして、フィリスに向けて手を差し伸べる。


 フィリスはその手を見て少し驚いた。


「何も知らないのに偉そうでごめん。


 自分を責めることも時には大切だけど、そんな自分を許すことはそれ以上に大切なんだよ。……今は難しいかもしれないけどね」


 それが、彼の今できる彼なりの救いだった。

 そしてその言葉はフィリスにしっかりと届いていた。


 彼女は差し伸べられた手を見て、一瞬その手を掴もうとした……が、やはりそれは彼女自身が許すことができなかった。


「それは、哀れみ?それとも慰め?」

「違うよ、これはフィリス、君への思いだ。……君はそんな重い事を抱え込んでいい歳じゃない。そう思ったから、手を差し伸べたんだ。


 ……だけど、取るも取らないもフィリスの自由だよ」



 フィリスはその言葉を聞いてしばらく考えた。


 差し伸べられた手を取るべきか取らないべきか。

 自分を許すか、許さないか。




 それをしばらく悩んで、ようやく一つの答えを出した。

タイトルを少し変えると……「許していい子と、伝える青年」になる!


一発で気づけたらすごい!

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