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混乱の病室

 ある病院の病棟にある一室から、フィリスは外を眺めていた。



 色々と知らないものに触れる中で色々と気づいたことがある。


 まず、ここが私の元居た世界とは別物だということ。

 これは、この世界を見た時から薄々感じていたが、今となっては疑いようもない事実となっている。


 二つ目、この世界には魔王も勇者も存在していない。

 知的生命体が人間しかいないらしい。だが、私が先日私を助けてくれたあの男に


「平和で、いいね」


 と言ったとき、


「でも昔は人間同士で争いあっていたんだよね。そう考えると本当に今は平和でいいよね」


 と返された。



 三つ目、この世界でしっぽや角を出していると色々とまずいらしい。

 あの男にはこす、ぷれ?なるものと間違えられた。しかし、私があの後意識を失っていたのだが尻尾や角が取れなかったのでかなり混乱していたらしい。

 結局それは、私が記憶操作と角と尻尾を隠蔽することでどうにかした。


 ……と、まぁこれらのことがわかった。



 フィリスは、はぁ、とため息を一つついた。



 帰る方法も分からないし、ここへ来た方法も分からない。

 私、これからどうすればいいんだろうか……。



 うぅ、と彼女は項垂れていた。


 その時、彼女のいる病室のドアがコンコンと叩かれた。

 この病室は一人部屋でフィリスしかいないので、目的ははっきりとしていた。


「入ってもいいですよ」


 フィリスがそう言うと


「失礼します」


 と、男の声が聞こえた。そして、部屋の扉が横へスライドされて開いた。



「なんだ、お前か」

「悪い?……病院の人が言っていたよ、親族の方に連絡を入れたいから電話番号を教えてほしいって」


 フィリスは病院に救急車で運ばれたとき気絶していた。さらに、身元を証明するものが無かったため、親族に連絡を入れることができなかったのだ。


 なのでこうして病院の人は連絡先を聞きたがっているのだが、彼女はそれを頑なに病院の人に言おうとしなかった――と思われているため、こうして一番接しやすいだろうと彼女を助けた男が呼び出されたわけだが、


 フィリスには電話番号がどういうものか分からない。また、親族は既に全員死んでしまっているため、どう答えていいのか分からなかったので答えなかったというのが真実だ。


「そういえばここの人間にデンワバンゴウを教えろと何度も言われたね。――で、デンワバンゴウって一体何のことなの?」

「は……?」


 男はそんな真実など知る由もないので、そんな変な声を出してポカンと固まってしまった。


「大丈夫?」


 フィリスは固まってしまった彼を変に思い、ベットの傍で固まってしまった彼の目の前で手を振る。


「……っ、えーと、君は電話番号を知らないの?家族の電話番号を知らないのでは無く、電話番号そのものが分からないの?」

「……そうだよ」

「これじゃあ君の両親に連絡を取れないじゃない……」


 男は、少し呆れたような、困ったような、どちらともいえない顔をしていた。


「…………それ以上、それ以上言わないでよ、人間。お前は私をそんなに苦しめたいの?」


 男は、突然そう大声を上げた目の前の少女に驚いた。



 ……実は何度も両親や家族と口に出す男に対し、フィリスは怒っていたのだ、


 


 しかし、やがて悲しそうな顔をして言った。


「私の両親は私を守るために――死んだよ。……分からない?人間。私をこれ以上怒らせないで……」


 男はフィリスの言葉を聞いて、はっとした。そして


「ごめん」


 と、目の前で涙を流す少女に一言謝った。



 その時、フィリスは冷静さを取り戻した。


「……こっちこそ、ごめん。急に怒っちゃって」

「いや、非は僕にあるよ。傷つけてしまってごめん」

「いいよ。……それに命の恩人に言っていい言葉じゃなかった。……どんな罰でも受けるよ」


 フィリスはそう言い、深く頭を下げた。


 ――が、男は突然頭を下げられ『どんな罰でも受ける』と言われ、驚いた。


「これくらいのこと、罰を受けるほどのことじゃないよ。だから……」

「ううん、慈悲なんていらないよ。私は主人に対して酷い無礼をした。だから、相応の罰が必要」

「しゅ、主人!?何を言っているの?」

「何って、私を助けたのは私をおま……貴方の奴隷にするためじゃないの?」


 フィリスはさも当然のようにそう言った。


 男は、目の前の少女からありえない言葉が飛び出してきたので、思わず


「じゃないわ!?」


 と、突っ込みのような否定をしてしまった。


「え、違うの?」


 男の言葉を聞いたフィリスは、ありえない!という顔をしてそういった。


「違うよ!そんなわけないでしょ?」

「そう……じゃあ、どうして私なんかを人間が……」

「ただの良心からだよ。困っている人がいたら助ける。普通でしょ?」

「ふつう…………」


 その言葉を聞いたフィリスは、さらに涙を流した。

 その姿を見て、男は慌てた様子で


「大丈夫?」


 と、声をかけた。


 フィリスは、泣きながらも笑顔で


「大丈夫。ただ、ただ嬉しくて。私の諦めていた未来がこんなところにあったなんて……夢にも思わなかったから」


 そう男に話すのだった。

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