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屋敷に戻ったメイスは父に訊かれた。
精霊は殺してきたか、と。
メイスは黙って頷いた。
この地ではときおり、精霊を娶る者が現れる。
だがほぼ全ての者が上手くいかず、伴侶を殺してしまうのだ。
そして人の世界へ戻ってくる。
伴侶を殺す以外に誓いを解消する道はない。
人は誓いを破れる生き物なのだ。
子供たちをその罪から遠ざけるため、森へ行ってはならないと人々は言う。
精霊の伴侶となる事なかれ、と。
メイスは季節が変わる前に先方の領地へ婿入りし、思慮深い良き夫となった。
後継にも恵まれ、領民を思う、良き領主となった。
だが穏やかな風の吹く、水の温む春の暖かい日には塞ぎ込む事が多かったという。
お姉様。
ねえ、お姉様。
恋はどんなものだったのかしら、お姉様。
恋は楽しいものだったわ。
歌うより楽しいこと?
歌うより楽しいこと。
踊るより楽しいこと?
踊るより楽しいこと。
弾むようで、くすぐったくて、心地好いこと。
弾むようで。
くすぐったくて。
心地好いのですって。
素敵ね。
素敵ね。
すごく素敵。
でも楽しいけれど素敵ではないの。
どうして?
どうして、お姉様?
楽しいけど退屈だった。
体のある生活は、刺激的だけど不愉快だった。
誓いは縛りつけるだけで苦痛だった。
あの体を捨てられて本当に良かった。
恋は楽しいけど素敵じゃないの。
楽しいけど素敵じゃないの?
素敵じゃないわ、ああでも。
昔、死んでしまったお姉様はどうだったのかしら。
自分で森を出て、誓いを破って消えてしまったの。
遠いところへ行ってしまったのよ。
笑って行ってしまったの。
どうして誓いを破ったの?
どうして笑っていたのかしら?
恋は、恋は。
楽しいものではないのかしら?
美しいものではないのかしら?
わたしは恋をしていたのかしら?