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閲覧注意。R15、残酷な描写あり、バッドエンド。
お読みになるさいは自己責任でお願いします。
水面を風が撫でる。
波紋にあわせて、ハープの音が響いた。
恋をしたことはある?
いいえ。
いいえ。
いいえ、お姉様。
恋をしたいわ。
でもそれは毒なのだそうですよ。
前にも死んでしまったお姉様がいるのでしょう?
恋をしてこの世界からいなくなってしまったのですって。
でもとても美しいのだそうよ。
とても楽しいのですって。
歌うよりも楽しいのかしら。
飛ぶよりも?
踊るよりも?
体が軽くなるのですって。
小鳥の羽よりも?
水面に浮かぶ花びらよりも?
わたしたちには体がないのに。
おかしなものね。
おかしなものね。
恋ってきっとおかしなものなのね。
その森のそばを通ると、囁き声やくすくす笑う声。
そして風を知らせる葉ずれの音とともにハープの調べが聞こえてくるという。
それは精霊たちの声。
その森には精霊たちが住まう。
人はけして近づいてはならない。
村ではそう言い伝えられていた。
メイスは領主の末の息子で、今年16才。
今はまだ、王都で騎士となって戻った3番目の兄の従者だが、いずれは騎士に任ぜられる事と決まっていた。
その兄は今日、次男とともに離れた地の領主のもとへと向かっている。
次兄の婚約者を迎えに行くためだ。
自身も連れて行ってもらえるものと考えていたが、あいにく1番上の兄に、ともに留守を命じられた。
修練が足りぬと訓練を受けるよう言いつけられていたが、それが気に食わなかったメイスは屋敷を抜け出して森へとやってきている。
自由と言えば聞こえはいいが、我慢の効かない、甘やかされた性質が、旅への同行を却下された一因である。
だがメイスにはそんな事は分からなかった。
だから1人馬を走らせ、森へと入る。
兄の従者をしていて普段自由がない分、ここで取り戻しておこうと考えたのだ。
金の髪に青い瞳、若々しい心と体に恵まれた美しい少年は、屋敷の誰からも愛され、慈しまれ、世界を十分に堪能していた。