私、魔王様の生贄だったはずなのに何故か就職先を斡旋されています。
私の名はマリス。16歳。彼氏いない歴=年齢です。処女です。
生贄です・・・
我が国では毎年、魔王様に生贄を捧げ、一年の無事を祈念することになっています。
これは建国以来続いてきたことなので、国民に拒否権はありません。
仕方の無いことなのだと・・・
年頃の娘が居る家は皆、戦々恐々としています。
生贄に選ばれる条件は15歳以上で汚れなき乙女であること。
つまり処女です。
だからこの国の女性の初婚年齢は異様に低いです。
15歳で既に子持ちなんてのも珍しくありません。
でも私は昔から病弱で良く寝込んだりしてまして、そのせいで発育も悪く、体はモヤシみたいに細くガリガリで背も小さく、更に引っ込み思案な所もあり、男性が苦手でした。
ぶっちゃけモテません。
なので生贄に選ばれたと聞いた時、両親が悲しむより先に、どこかホッとしたような表情を浮かべたのを私は見逃しませんでした。
行き後れの娘が片付いて安心したんでしょうね。
仕方の無いことなのです・・・
◆◆◆◆◆
私は今、この国の真ん中にある巨大な洞窟の前に来ています。
入り口を兵士で固め、私が逃げ出さないようにしています。
この洞窟の一番奥に魔王様がいらっしゃるそうです。
ぶっちゃけ恐怖で足が震えて今にも逃げ出したくなりますが、兵士が居るのでそれも無理です。
震える足を引き摺るようにして奥へ奥へと進みます。
歩き続けて何時間くらい経ったでしょうか。
私は疲れてヘトヘトになっていました。
すると前方が急に開けて広場みたいな所に出ました。
広場の中心に誰か立っています、魔王様でしょうか。
私は足が竦んで動けません。すると、
「今年の娘は君か?」
間違いありません、魔王様です。
私が声も出せず震えていると、魔王様が、
「怖がることはない。こちらに来なさい」
と仰るので、私は恐る恐る近付きました。
「・・・チンチクリンだな」
私を上から下までジックリと眺めながら魔王様が仰いました。
・・・そりゃ確かに痩せてて背も低いけどそこまでハッキリ言わなくても良くない?
私が憮然としていると魔王様は、
「取り敢えずお茶でも飲みながら話そう」
と言って指をパチンと鳴らしました。
次の瞬間、私達はどこかの客室のような豪華な部屋の中に居ました。
魔法!? あの一瞬で転移したの!? 凄い!
私は恐怖を忘れてビックリしてました。
「座って。今お茶を淹れよう」
めっちゃ柔らかいソファーに座ると魔王様手ずからお茶を淹れてくれます。
私はその時になってようやく魔王様をジックリ近くで見つめました。
腰まで伸びる黒髪に赤い瞳、顔立ちは中性的で男性とも女性ともとれそうで、見惚れてしまう程の美しさでした。
ゆったりとした黒いローブも良くお似合いです。
「名前と年齢は?」
「マリス、16歳です」
「趣味と特技は?」
「読書と裁縫、あと料理も得意です」
「魔法は使える?」
「簡単な生活魔法程度なら」
「勤務時間と勤務地の希望は?」
「・・・あの、これは一体なんなんでしょうか?」
私は答えなから混乱していました・・・
「なにって面接だけど?」
なんの面接なんでしょうか・・・
「あの、私は生贄なんじゃ?」
「あぁ、それね。勘違いだから」
「勘違い?」
勘違いとはなんでしょうか・・・
「うん、そもそも生贄なんて必要ないから」
「私が痩せっぽちで食べても美味しくなさそうだからとかじゃなく?」
「じゃなく」
私はますます混乱してきました・・・
「そもそも私はベジタリアンだから」
「え? じゃあなんで毎年生贄を?」
「あぁ、それはね、この国の王族がずっと勘違いし続けてるからなんだよ。何度も何度も違うって言って聞かせたんだけど、自分達の思い込みを信じて聞きゃしない。生贄を捧げないと国が滅ぶって信じて譲らない。その内否定するのも面倒になってね。放っておくことにした。ただ生贄にされた娘が気の毒でね。そのまま帰したりしたらどんな酷い目に合わされるか分からないだろ?」
確かに仰る通りです、生贄の任を果たせなかったとして只じゃ済まないでしょう・・・
「だから就職先を斡旋して国外に逃がす事にしたんだよ。さっきの面接はそのため」
衝撃の事実です・・・魔王様って実は良い人なんでしょうか。
「魔法が得意ならA国、農業や酪農に興味があるならB国、芸術家や音楽家を目指すならC国、経済や商業を学びたいならD国、料理や裁縫の腕を磨きたいならE国、君の特性に合った国を紹介してあげるよ」
そう言って魔王様はそれぞれの国のパンフレットをテーブルに並べました。
なんだか至れり尽くせりですが、それよりも私にはさっきから気になることが・・・
「君の特性ならE国が良いんじゃない? 料理や裁縫が得意なんだよね?」
「得意って程じゃありません。下手の横好きというか。あのそれよりも魔王様?」
「なに?」
「このお屋敷、人の気配がしないのですが使用人は居ないのでしょうか?」
そう、先程紅茶を淹れてくれた時もパンフレットを用意してくれた時も、魔王様が手ずからおやりになっているのです。
「居ないよ。私一人」
またまた衝撃的事実です。
どれだけ広いお屋敷なのかわかりませんが、使用人が一人も居ないとは・・・
「ご不便ではありませんか?」
「精霊が色々とやってくれるから平気」
精霊、それは人には見る事が出来ない存在、魔法を使うにはそれぞれの属性(火、水、風、土)に合った精霊の力を借りる必要があります。
魔王様ともなると精霊を使役することが出来るんでしょうか。
「その・・・魔王様にお許しいただけるなら、このお屋敷で働かせていただけませんか?」
「そんなこと言われたの初めてだよ、なんでまた?」
「ご不便はないとしても、その、お一人ではお寂しいのではないかと思いまして。私のような者でも居れば少しはお役に立てるんじゃないかなと・・・すいません、出過ぎた真似でしたか?」
「いや、そんなことないよ。家族以外でそんなこと言われたの初めてだから素直に嬉しい」
「そ、そうですか。ん? 家族?」
「あぁ、精霊達のことだよ。私が生み出したから」
「え? 生み出す?」
「そう。人は私のこと魔王って呼ぶけど、実際は精霊王が正しいんだよね。面倒だから訂正しないけど」
今日何度目の衝撃的事実でしょうか・・・
「そ、そうなんですね。あのそれで採用の方は・・・」
「うん、気に入った。雇うことにするよ」
「あ、ありがとうございます! 精一杯勤めます!」
「頑張ってね」
私は無事採用されてホッとしました。魔王様改め精霊王様に感謝です。
さて、私がここの採用に拘った理由は、先に述べた以外に実はもう1つあります。
精霊王様を一目見た時、私は恋に落ちました。一目惚れってやつです。
しかも恋愛経験皆無だった私にとって初恋でした。
今はチンチクリンですがまだ16歳。成長の余地は残ってると思います。
いずれ本当の家族になれたらいいな、なんてちょっとくらいは期待してもいいですよね。
なんて妄想してたんですが・・・
「さて、ひとっ風呂浴びようか? 君も一緒にどう?」
そう言われてローブを脱いだ精霊王様の胸部装甲が目に入った途端、私の初恋は儚く散ったのでした・・・




