新キャラッッ!!
何十分か馬車道を歩き続け、王都が見えてきた。
遠くからでもわかるほど、一度はこんな場所で二泊三日してみたいと思わせる豪奢なお城を中心に、渋谷出身の私的にはお前らこんなど田舎で暮らしてて鬱にならないんかと思ってしまう城下町が広がっている。
王都は人の出入りが激しいため、いちいち細かく厳しい検問はしない。
奴隷の私でも身分を隠せばすんなり入れるはずだ。
「さすが王都。でっかいわね」
「どうでもいいだろうけどね、私が行く予定だったおつかい、王都に行く予定だったんだ」
「ホントにどうでもよくてびっくりした」
後ろから一台の幌馬車が走ってきた。
こういうとき、意外にもメミーナがいち早く気づいて道を開けたのがなんか腹立つ。
妙なところで常識人ぶるんじゃない。
と、幌馬車が私たちを通り過ぎようとした瞬間、
「見つけたぞ!」
ドバっ! と3つの人影が幌を突き破って飛び出してきた!!
「あ、あんたは!」
「逃げられると思うなよ、俺の奴隷!」
音速ババアに吹き飛ばされた奴隷商人さんが現れた。
しかもその両隣には、若々しい女の子が二人。左右で黒と白に分かれた髪をした目付きの悪い子と、ピンクの髪をした活発そうな女の子であった。
「紹介するぜ。俺の妹の娘と、その友達だ!」
微妙な関係性の女の子を連れてくるんじゃあない!
顔を合わせたとき一応軽く会釈はするけど会話がない気まずいやつじゃないの!
「さあ! 自己紹介してやりな!」
白黒頭がニヤリと笑って一歩前に出た。
「うっしっし、私はコノエ。趣味は人間観察。好きな映画ジャンルは人間怖い系のスプラッタ。人間の闇の部分見るのが好きって感じかな。そういうの見ると笑っちゃう。まあ自己紹介なんて意味ないよね。人間って、自分に得がある人間しか関心ないし。嫌いなものは……騒がしいやつとか群れてるやつかな。ちなみに、人の内臓や血を見ると安心するけど、怒ると記憶がなくなるほど大暴れするんで、よろしく」
イタタ! アイタタタタ!!
痛々しい自己紹介を詰め込み過ぎじゃ。
こんなの数え役満でしょ。
続いてピンク髪がにこりと笑う。
「こんにちは! わたしリリィ! 好きな科目は国語と体育。苦手なのは……算数(秘密だよ!) 好きな料理は〜、うーんと、コノエちゃんが作った肉じゃがかな? 実は誰にも言ってないけど、アイドルになりたいなって思ってて……。でも、わたしみたいな普通の子じゃ無理だよね? とりあえず、元気にがんばります!!」
え、かわいい。
何この子。女児アニメから来たの?
推す推す。リリィちゃん推すよ。キミならトップアイドルになれるって。
最古参Tシャツどこで売ってんの?
奴隷商人さんが得意げに笑った。
「お前らの自由もここでお終いだ!」
ごめんちょっと待て。奴隷商人の親戚どっち? リリィちゃんにこいつと同じ血が流れてるの嫌なんですけど。
「セリちゃんセリちゃん」
「なによ」
「やばいよ。わたし自己紹介考えてない!」
「いやあんたはいいでしょ」
「くっそ〜。即席で対抗するしかないか〜」
何故か渋面でメミーナが二人を見やった。
「ど、どうも、あのわたしはメミーナと言います……。えっと、趣味は、園芸で」
ゴミみたいな自己紹介の途中で、何者かが叫んだ。
「いい加減にしろよ!」
どこからともなくサングラスをかけたおっさんが登場。
「お前これ本番なんだぞ! なあ? メミーナお前これアイドル番組だってわかってる? いつまで経っても暗いから視聴率落ちてんだろ?」
「はい。ごめんなさいプロデューサー」
「あ〜あ、こんなことになるならもっと生き生きしたアイドルと仕事したかったわ〜」
「ま、待ってください! もう一度チャンスを!」
「いやもう無理だから」
「ふ、ふざけんな! わたしだってなあ! わたしだって、頑張っちょるんだよ! 田舎のお母さんから送られてくる手紙と仕送りを読むたび、胸が痛くなるよ。でも、でもね。こんなわたしにもファンがいるんだよ。ファンレター読むと励まされて、仕事がんばろうって気持ちになるんだよ。それを、それをお前はよくも!」
「じゃあもっとファンの気持ちに応えて生き生き自己紹介しろよ!」
「……いやそれはめんどくさい」
「なんでやねん! もうやってられんわ」
「ありがとうございました〜」
メミーナとサングラスがお辞儀をして、そのままサングラスは去っていった。
よかったねメミーナ。リリィちゃんだけはクスクス笑ってるよ。




