決着ッッ!!
いまのリリィに唯一弱点があるとするなら、人間であることである。
先読みと、強力なビームを駆使できたとて、肉体は人間。体力は幼い女の子なのだ。
「はぁ……はぁ……」
長引く戦いによって、リリィの動きが明らかに鈍くなる。
この勝機を逃すまいと、ラズが迫った。
いくら相手の動きを察知できるとはいえ、体力が減り鈍重になっていては意味もない。
リリィはビームによるカウンターでは間に合わないと悟り、バリアで防ぐ。
が、
「吹っ飛べ!」
バリアごと、蹴り飛ばされてしまった。
さらに、ラズが生み出した魔法の手がコノエの腹を殴った。
「コノエちゃん!!」
「ふはは、お前の攻撃では私は倒しきれない。もうじき終焉だ」
「くそっ」
対抗できても、ダメージレースでは不利なのだ。
それでもなにか手はあるはず。諦めずに立ち上がったリリィであったが。
「え……」
手に握ったステッキを落とし、完全な放心状態となった。
その異常に、コノエやラズまでも動きを止めた。
体力が尽きた、ようには見えない。何かを認識したのだと、彼女の知り得た情報が気になった。
リリィの頬を涙が伝った。
「マイカちゃんが、死ぬ。なんで!? そのドラゴノイドはレンカさんの仇じゃないの!? なんで、そんなに……」
まさか、とラズが問いただす。
「テスカが、灰色のドラゴノイドと一緒なのか?」
淡々と、リリィが答えた。
「死んだよ。そいつは」
「死……」
テスカが死んだ。あのテスカが。
計り知れない虚無感が胸から眼まで溢れた。
「嘘を、つくな……」
ラズはテスカを探すため、ホールを飛び出していった。
後を追うかと思われたリリィだったが、膝を付き、震えだす。
「死んだ、マイカちゃんが……マイカちゃんまで……」
そっと、コノエが肩を叩く。
「リリィ……。マイカを捜そう。いまなら助かるかもしれない!」
「ダメだよ。もう遅い。遅いんだよ、何もかも。みんな死んだ。たくさん、ドラゴノイドも、人間も、みんなたくさん死んだ!!」
「リリィ?」
「よくも俺の友を!! 嫌だ、怖い! 殺さないで!! 私の足が……誰か助けて! 僕は……僕は……」
「リリィ! 誰の心を読んでいるの!! 察知の魔法を解いて!!」
そんな余裕などない。
押し寄せる負の感情がリリィの脳を完全に埋め尽くし、一切の思考と判断力を排除していた。魔法の暴走である。
「うっ」
瞬間、リリィが吐いた。
「リリィ!!」
「あ……う……」
ふらつきながらも、リリィは立ち上がり、歩き出す。
「どこに行くの!」
「終わらせる、ぜんぶ……」
「だけどその体じゃ……」
途端、リリィが走り出した。
そんな力も残っていないはずなのに。
戦争を終結させる、恐怖の元凶を断つ。あらゆる者の願いが、リリィを強制的に動かしているのだ。
引き留めようとするコノエであったが、先程ラズから受けたダメージのせいで、立つこともできなかった。
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ラズの眼に、マイカの遺体が映った。
テスカはいない。だが、テスカのものと思しき、剥がれた鱗があった。
「テスカ……」
溶けたのだと、察してしまった。
後方に、追いかけてきたリリィが立つ。
「ラズ……」
緩慢と、ラズが振り返る。
彼女の瞳に感情はなかった。
「お前、名は」
「リリィ」
「そうか、リリィ。……お前に頼みがある」
「?」
「頼む。頼むから、せめてお前を殺させてくれ。もはや他は望まん」
「キサマ……」
「お願いだから……」
虚ろな瞳からボロボロと涙がこぼれだした。
「我らと共に消えろ!!」
両者共に走り出す。
ラズの手刀がリリィの胸を刺すと同時、リリィはステッキをラズの口に突っ込んだ。
「この距離で食らったらどうなる!!」
「!?」
「この世からいなくなれええええ!!」
このとき、コノエが痛みに耐えながら追いついた。
彼女が城の外に出て最初に目にしたのは、ステッキから放たれたビームが、ラズの頭部を破壊した瞬間であった。
「お、終わった?」
ラズを倒した。これで本当に戦いは終わったのか。
直後、コノエが異変に気づく。
ラズの死体が、凄まじい邪気を放っていたのだ。
「リリィ、それ!!」
怨念のようなラズの残滓がリリィを包むと、彼女はふっと意識を失い、気絶した。
 




