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最終決戦ッッ!!

 リュウトが火球を連発した。

 平凡なドラゴノイドなら即死しているはずなのだが、相手は最強のドラゴノイド。すべて直撃したものの、当然たいしたダメージにはなっていない。


「ふん」


 テスカは一瞬にして距離を詰め、手刀で腹を突く。

 が、リュウトもまた同様に、その丈夫な肉体で持って耐えてみせた。

 神の加護を受けた彼の体は、常人とは比べ物にならない耐久力を誇っている。

 これにはさすがのテスカも驚き、後ろに下がった。


「硬い」


「ふっ、そんなもんかよ、トカゲ」


 一応、内臓に衝撃は走って胃液を吐きそうにはなったが、たいした問題ではない。


「怖いならさっさと尻尾切って逃げていいぜ!!」


 テスカの周囲に魔法陣が出現し、一斉にビームが発射された。

 テスカはまるでそよ風を受けるかのような余裕綽々な無表情でビームを浴びると、高速でリュウトに近づき蹴り飛ばす。


 食堂の壁を突き破り、リュウトは城の裏手に放り出される。

 彼を追うように、テスカも外に出て地面に降り立った。


「しょせん人間。大したことないな」


「へっ」


 腹を抑えながら、リュウトが立ち上がる。

 笑みを浮かべているものの、肋骨が折れていた。


「そういうのは勝ってから言え」


「口だけは立派なもんだ」


 再度テスカが突っ込んだ。

 だが、


「!?」


 テスカはリュウトに触れる前に、なにか見えない壁のようなものに激突し、


「死ね、トカゲ!!」


 突如両者の間から放たれたビームに飲まれ吹き飛んだ。


 テスカは、外壁に叩きつけられると同時、はじめて感じる不快感に冷や汗をかいた。

 視線が、ふらつくのだ。

 頭がぼーっとし、力が入らない。

 およそ人間が強力な拳を食らった際に現れる症状が、テスカを襲っていた。

 壁に激突したからではない、あのビームに当たった直後からである。


「なんだ……?」


 テスカの生存本能が刺激され、観察力が著しく高まる。

 目を凝らしてみれば、リュウトを覆うように、半透明の膜がドーム状に形成されていた。


「バリア?」


「はっ、気づいたかよ。褒めてやってもいいぜ」


 テスカは試しに、今度はゆっくり近づく、また膜に阻まれ、そこから発射されたビームが腹を射つ。

 しかし、先程より痛くない。


「なるほど、俺の力をそのまま返しているのか」


 リュウトが驚愕に目を見開いた。

 一人修行に励みようやく会得した最強の防御魔法、そのカラクリをたった二撃で見切るとは。

 とはいえ、仕組みがバレたからといって破られたわけではない。


 テスカが笑った。


「ふーん。ラズから話は聞いていたが、魔法は本当に便利なんだな。……面白い、ちょっとやる気でたぞ」


 またもテスカが突っ込んだ。

 とうぜん弾かれ、自身の力が反射したビームの餌食になるのだが、それでも懲りずに突進を繰り返した。

 何度も、何度も何度も何度も、テスカは攻め続けた。

 これにいったいなんの意味があるのか。無策の極み、無謀、無駄骨。誰もがそう見るに違いない。

 否、あるのだ。意味はあるのだ!!


「くっ!」


 リュウトの眼に、テスカの突進によって歪んだバリアが映った。

 同時に、テスカが纏う禍々しい邪気が増幅した。


 テスカも魔法を使用したのだ。

 あのビームが、こちらの力をそっくりそのまま返すのなら、さらにその力を吸収し自分のパワーに加えてばいい。

 リュウトの絶対防御魔法の威力をその身で持って学び、真似したのである。

 蓄積したエネルギーを魔力に変換し、突進の威力に加算する。

 いずれバリアの防御力、反射力を上回れば、それが終焉となる。

 至極シンプルで非合理的な戦術であった。


「ははは、意外と脆そうだな」


「こいつ……」


 ーー俺が必死こいて会得した魔法を、模倣したのか?

 しかし吸収するとはいえ、ビームを食らった衝撃が完全に失われるわけではない。

 そうでなくては困る!!

 仮にダメージがあるのなら、これは耐久力の勝負。

 バリアが砕けるのが先か、あいつが力尽きるのが先かーー

 

「へへ、おもしれえ、こいよバケモン!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リリィたちが突入する直前、ラズは自室で地図を広げていた。

 新しい住処と成りえそうな場所までのルートを確認していたのだ。

 ずいぶんと時間が掛かったが仲間たちの傷も癒え、食用の人間たちの加工も終わり、さあいよいよ出発というタイミングで、事は起きたのである。


「人間ども、いま来るか……」


 ドラゴノイドが一匹が駆け寄ってくる。


「また真正面から人間です!」


 このままでは先日の二の舞である。

 全勢力でもって迎え撃つほかない。


「テスカを呼べ」


「もう侵入者の一人と戦ってるみたいで」


「……わかった。速やかに人間を排除し、城から離れるぞ」


 廊下を駆け、人間たちがいると思われる玄関ホールへ向かう。

 扉を開け、階段から下を見渡したとき、ラズは目の前の光景を疑った。

 戦っているのは、たったの5人。

 大柄の男と老人、少年と、2人の少女。

 たったそれのみだったのだ。

 囮、にも思えたが、こうも少数では早々に全滅するだろう。

 気でも狂っているのか? と相手の正気を疑ってしまう。

 しかし実際の戦況は意外にもこちらが劣勢。

 彼らを取り囲む20を超えるドラゴノイドたちは、どうにも臆して逃げ腰になっていた。

 反対に人間たちはギラついた眼差しで、ドラゴノイドに立ち向かっている。


 先の戦闘の影響で、人間に怯えているのだ。またあの薬を使われたら、死は免れないから。


 一人の少女がラズに気づいた。


「ラズ……」


 ラズが叫ぶ。


「全員逃げろ!! 命を守ることだけ考えるのだ!!!!」


 ドラゴノイドたちが散り散りに脱走をはじめる。


「くそっ、追うぞ!」


 ガラブラとクローノが場外へ走っていく。

 阻止しようと身を乗り出したラズの肩を、ヘイムが叩いた。


「俺が行く。お前も逃げろ」


「しかし」


「お前はボスだ。死なれでもしたら、たまったもんじゃない」


「ヘイム……」


「お前に従っていると良い暇つぶしになる。ふっ、退屈な人生は嫌なのさ」


 それだけ言い残し、ヘイムはガラブラとクローノを追いかけた。


 ホール内にはラズと、少女2人だけが残る。

 ラズは、先程から自分を睨んでいる者を、睨み返した。


「お前たちが、か弱い生物でありながら生命の頂点に君臨している理由がわかった」


 ヘイムは逃げろと告げた。

 だがこのまま何もしないのはラズのプライドが許さなかった。

 せめて、あの目障りな子供だけでも。しつこく立ちはだかる下等生物だけでも。


「お前たちは数が多く、そして、世界中の、歴史上のどの生物より、殺しが上手い」


 一段、また一段と階段を下っていく。


「太刀打ちできない生き物がいるなら、殺せるよう道具を作る。確実に仕留めるよう、策を練る。殺すと決めた者は、いかなる手段を講じてでも殺す。どうりで、単純な生物が弱者になるわけだ」


 ラズはいまになって、ドラゴンの女王に敬意を払った。

 あのとき、彼女の言う通り人間に手を出さなければ、少なくとももっと平穏に生きられただろう。

 仮にこの場を去ったとて、人間たちとの戦いは続く。

 当初はそれでもよかった。勝てる自信があった。あくまでも、当初は。


「まあもっとも、お前たち2人程度では、私との差を埋めることなど……不可能だがな!」


 ラズが手刀を構えた瞬間、リリィが鼻で笑った。


「怖いんだ、人間が」


「は?」


「自業自得じゃん」


「……キサマ!!」


 飛び出すラズであったが、その動きを余地していたリリィがビームを発射し、地面に転がってしまう。

 その隙を逃さぬよう、コノエは憂いを帯びた眼差しで、ラズの眼球へ弾を撃った。

 威力の大きい銃であったが、銃弾程度ではラズの眼球は撃ち抜けない。だが数秒片目の視界を塞ぐことはできた。


「人間のくせに……」


 このとき、コノエの戦闘意欲は限りなく低かった。

 いま、ドラゴノイドは世界を支配するために戦っているのではない。生きるために戦っている。

 残虐非道なだけの集団だと認識していたが、違う。彼らは決して悪魔ではない。襲いかかる人間に立ち向かう一つの生命体なのだ。

 そのことはリリィだって、いや、リリィの方がよくわかっているはずなのに。


「リリィ、私が、私がサポートするから、無茶はしないで」


「……うん」


 しかしリリィとて、復讐や、努力、警戒心、そして友に告げてしまった想いが幾重にも重なり、後には引けないのである。


「死ね人間!」


 察知の魔法でラズの動きが読めるとしても、気を抜けば殺される。

 天使の涙を注入すればラズとて溶けるだろうが、あれはガラブラほどの怪力がなければ、そう簡単にドラゴノイドの鱗を貫き注入できない。

 一応、少量だけコノエは所持しているが、使える機会はまず来ないだろう。


 リリィとラズ、最後の戦いが幕を開けた。

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