検問ッッ!!
ひとまずお金と寝床と食料を確保しなくてはならない。
とはいえ街に戻っては警備隊に見つかってしまう恐れがあるので、数里離れた王都へ向かうことにした。
ちなみに、道中で川に捨てられていたローブを拝借したので、衣服は問題ない(泣きたくなるほどボロボロだが)。
「だからさセリちゃん、光の速さで活動しちゃうとそのぶん早く年取っちゃうのよ」
「セリちゃんって言うな」
「知ってる? 相対性理論。でもここにママを倒す糸口があると踏んでるんだがねわたしゃあ」
「へえ」
「相手が音速ならこっちは光速。シンプル故に間違いないでしょ! 相対性理論の素晴らしさに感謝! ありがとう!」
「うん」
「ふへへ、あらあら、その反応、さては相対性理論知らないな? ムチムチじゃん」
無知の知な。しかも使い方違うし。
この相対性理論連呼女だが、私は未だ仲間として認めていない。
しかし置いていこうとすれば血の涙を流しながら追いかけてくるから厄介なのだ。
よっぽと一人は寂しいらしい。
余談だが私は常々、馬鹿なやつほど相対性理論について考えがち現象について論文をまとめたいと思っている。
「だいたいどうやって光速で動けるようになるってのよ」
「あ〜、実は神の血を引いているみたいな設定だったらいいな〜」
「もしそうなら神の面汚しだよあんたは」
しばらく馬車道を歩いていると、検問所が見えてきた。
あそこを超えなければ王都にはたどり着けないが、私は奴隷の身分。身分証など持っているはずもなく、まず突破は困難だろう。
身分を偽ろうにも、私の腕には奴隷の証である入れ墨が掘られているため、難しい。
「まずいわねえ。いまの体じゃ金網を飛び越えるなんて無理だし」
「作戦会議だああい!」
「ちょ! 黙れ! 声がでかい!」
「このバカチン! あんなとこ強行突破しないで何が最強の格闘家よ!」
「はい。じゃあさよなら。一人で行っといで」
「うわああん!! ごめんて〜」
一旦引き返して岩陰に隠れ、私は策を寝ることにした。
警備が手薄になる時間帯まで待つのがベストか。
だとすれば、視界の悪い深夜で、警備員が交代するタイミングをじっと伺うべきだろうか。
他に手があるとしたら……。
私は渋々、隣でのんきに青空に向かって全力笑顔を浮かべている頭イカレぽんちを見やった。
「そういえばあんた、身分は?」
この世界の貴族階級は特権が多い。
もしメミーナが、まあまずありえないだろうけど貴族なら、奴隷少女である私を連れていても検問を突破できるはずなのだ。
「もしかして貴族だったりするの?」
「心はいつでも気高いですわ」
「あっそ。違うのね」
「あ! ねえあれ見て!」
メミーナが指差す方を見ると、馬車がのんびりと検問所へ向かっていた。
荷台にはなにやら屈強な男たちがいて、いかにも、「血に飢えてます、筋トレ大好きっす!」みたいな強面を浮かべていた。
「なにかしら」
「きっと王都でやる格闘大会に参加するんだ!」
「へえ。そんなのやるんだ。ちなみに私は参加するつもりないから」
「先に言われた! でも〜、聞いた話によると最近身元不明の優男が優勝したんだって」
「身元不明? 優男?」
いかにも異世界から来た勇者って感じがするわね。
そいつが王都を拠点にしているなら、巡り会えるチャンス?
期待に胸を膨らませ、結局夜まで待つことにした。




