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失恋ッッ!!

 陽動作戦から半日が経過し、古城内では戦に疲弊したドラゴノイドたちが休息を取っていた。

 城内で待機していた者たちも、ガラブラが使用した謎の攻撃を聞き、尻込みしていた。

 萎縮した彼らに対し、ラズがため息をつく。


「女も失い、すっかり負け戦だ」


 気分を変えるべく外に出てみると、裏口でテスカが蹲っていた。


「どうした、テスカ」


 マイカを失ったショックに塞ぎ込んでいることは百も承知だが、問うしかなかった。

 少しでも支えになってあげたかったのだ。


「眠っていただけだよ」


「そうか。なに、いずれまた会えるさ」


「別にいい。あいつは、人間だ」


 マイカは人間で、自分はドラゴノイド。決して交わらないし、種族の壁を超えるなど不可能なのだと、テスカは失望と喪失感に打ちのめされてしまっていた。


「ラズ、これからどうする。お前は俺を生かしてくれた。お前が望むなら、どんな人間だろうが殺してやるよ」


「いいのか?」


「いい。なんだっていい。なにもかも」


「……そうか」


 といったものの、ラズの心境は後ろ向きだった。

 人間など烏合の衆で、取るに足らない。そう思っていたのに、実際は数と未知の武器に苦戦してしまった。

 甘く見ていたのだ、人間を。


「追って連絡する」


 ラズの胸中を、不安が包んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうした、コノエ」


 私は一人、ガラブラの部屋を訪ねていた。

 レンカとマイカのことを知ったリリィは、話しかけてもまったく答えてくれず、私はあの子から逃げるためにここにきたのだが、理由はもう一つある。


「なんなの、あのドラゴノイドを溶かしたやつ」


「行っただろ。最終兵器だ」


「クローノは存在を認めてなかったけど」


「そりゃそうだろ。あんなもん」


「一体、なんなの?」


 数秒間を開けて、ガラブラは嫌々語った。

 魔法と薬学を組み合わせた毒。精一杯綺麗に表現すれば、こうである。

 その実は、普通に使えばただの栄養剤であるが、特定の遺伝子にのみ反応し、細胞を破壊する効果があった。

 しかも対象の遺伝子は選択可能で、目的に応じて殺傷相手を自由に変更できる。

 毒が働けば全身の細胞を液状に溶かし、栄養素として大地に消える。

 まさに天使であり悪魔。自然を大事に、でも外敵は必ず殺す。そんな人間の性質を具現化した、最上級のエゴ。それがこの、「天使の涙」と呼ばれる毒の正体であった。


「空気に触れると効果を失うってのが欠点だが、いずれは解消される。格闘家として、こんなもんは認めたくねえっていうクローノの気持ちはよくわかるし、俺もそうだ」


 でも、使わなきゃドラゴノイドには勝てない。


 と、ケイスが部屋に飛び込んできた。


「マイカさんが見つかった!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 街からさほど遠くない川岸に、マイカはいたらしい。

 腹部から血を流しながらもレンカの亡骸を決して離さず、気を失っていた。

 ドラゴノイドの生命力は人間の比ではないが、それでも、もう少し発見が遅れていたら危なかったとのこと。


 私とリリィが病院へ急ぐと、ガラブラが側に立つベッドで、マイカが上半身を起こしていた。

 リリィの唇が僅かに綻ぶ。


「マイカちゃん」


 だが、マイカは虚ろな瞳を向けるだけで、返事はなかった。


「あれ? マイカ?」


「無駄だ」


「どういうこと?」


「押さえつけていたドラゴンが目覚めたのかもしれない。心が壊れている。レンカのことを話しても反応がなかった」


 かつて、私はマイカからドラゴンに魂を乗っ取られた者の末路を聞いた。

 完全に意思が支配され、元には戻らないと。

 オニトの話が真実なら、マイカはドラゴンに乗っ取られた可能性がある。

 じゃあ、もしかしたらマイカは、マイカという人格は……。


「き、記憶がなくなったの?」


「どうだろうな」


 途端、リリィが叫んだ。


「クソッ!」


 リリィが早足で退室していく。

 慌てて追いかけたとき、ガラブラが、


「明日の夜9時、再度突撃する。戦いを終わらせるぞ!」


 重要な情報を口にしたが、立ち止まってはいられなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「リリィ待って!」


 夜道にてリリィの手を引く。

 リリィは止まってくれはしたが、振り向いてはくれなかった。


「なに?」


「私だって悔しいし悲しいよ。でも、あとはガラブラたちに任せよう」


「……」


「もしリリィにまで何かあったら、私……」


「……」


「リリィはアイドルになりたいんでしょ? 戦う必要なんてないじゃない!! リリィはなにも悪くない、責任を感じる必要なんてない!! アイドルになろうよ!!」


「……」


「なんでなにも言ってくれないの?」


 ゆったりと、リリィが私と顔を合わせた。


「聞かなくてもわかるもん、コノエちゃんの気持ち。ぜんぶ、脳に伝わってた」


 察知の魔法を、ずっと使っていたとでも言うのか。


「なんで、そんなこと……」


「耐えれるようになるため。また頭痛くなったら嫌だもん」


 つかの間の休息すら取らない気なのか。

 もはや言葉で引き止めるのは無理だ。私は強引に、感情に訴えかけるべく、リリィを抱きしめた。


「もうやめよう、リリィ」


「ていうかコノエちゃん、本当は私になってほしくないんでしょ? アイドルに」


「え?」


「知ってるよ。コノエちゃんの気持ち、ぜんぶ。……私を、独占したいってずっと思ってることも」


「それは……」


「怒ってないよ。むしろ、コノエちゃんがどれだけ私のこと想ってるかわかって、うれしかった」


 久しぶりに、リリィが笑った。


「私もコノエちゃんが大好き。だけど、ごめんね」


 力が抜けてしまった私を振り払い、リリィは再び歩みだした。


「私はもう、コノエちゃんが好きな私じゃないから」


 私は追いかける気力すら奪われ、ただ阿呆のように口を開け、リリィの背を見つめ続けた。

 とっくに手遅れだったのだ。もう、リリィはリリィじゃない。

 私の恋は、終わってしまったのだ。

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