別れッッ!!
テスカが腕を引き抜いた。
「これで邪魔者はいない。マイカ、俺といろ!」
テスカの言葉など、マイカには届いていなかった。
いま、彼女の世界にあるのは、瀕死の状態で横たわる最愛の姉のみであった。
「お姉ちゃん!!」
ドラゴノイド状態となり、テスカをふっ飛ばしてレンカの肩を揺する。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」
「マイカ、逃げて……」
蚊の羽音のようなか細い声が、マイカにレンカの終末を予期させた。
「嫌だ、お姉ちゃん! ……い、医者に!」
レンカを抱え、走り出そうとする。
が、その腕をテスカが掴んだ。
「待て!」
「どいて!!」
「そいつは助からない。大切なら魂ごと食えばいい」
「は?」
マイカの瞳が怒気を孕んだ。
しかし、こんなのに構っている時間はないと、強引に腕を振り払う。
瞬間、レンカの身に起きた変化に気づく。
呼吸が、止まっていた。
「お姉ちゃん!!!!」
マイカの体が震えだす。
何度も、何度も何度も姉の名を呼び続けたが、反応が返ってくることはなかった。
「そんな……」
膝から崩れ落ちるマイカを、テスカは訝しげに見つめていた。
殺した女がマイカの姉であると、いま知ったのだ。
家族、その存在の大きさなどテスカは想像もできない。
が、これがマイカを引き止める上で悪手であることは理解できた。
マイカが叫んだ。
女とは思えぬ重く枯れた絶叫が森に木霊する。
テスカは動揺しきり、半歩下がった。
「お、俺はただ……」
マイカが顔を上げた瞬間、その動揺は恐怖へと変わる。
ヨダレを垂らし、目は見開いて、威嚇する猛獣のように口角をあげ牙を顕にした攻撃的な相好。
殺すつもりだと、テスカは察した。
「お、おい、待て」
「がああああ!!!!」
マイカが飛びかかる。
腕でガードを試みるも、異常なパワーにテスカはふっ飛ばされてしまう。
「まさか、理性が飛んで目覚めたのか、内に眠るドラゴンが」
マイカの殺気がテスカを打つ。
これまでテスカは何度もマイカと戦ったが、現在の彼女は桁違いに強い。
それもそのはず。理性を失い、完全に本能だけに従った生物は、制御などしない。たとえ自身の体が壊れようとも構わず、限界を引き出して獲物を狩るのだ。
「こいつ……」
再度マイカが突っ込んでくる。
「ちっ」
殴り飛ばしてやろうと拳を伸ばす。
しかマイカにその腕を捕まれ、鋭く凶悪な牙で噛みつかれてしまった。
「くっ」
このままでは殺される!!
元来生存本能が高いテスカの脳が、マイカと同様に生物的本能以外を取っ払った。
「あっ!」
気づいたときにはテスカは、手刀でもってマイカの腹を貫いていた。
マイカが後退りし、膝をつく。
「マイカ、俺は……」
勝てぬと察したマイカは、姉の亡骸を抱きかかえ、嗚咽を漏らしながら去っていった。
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数時間後。マイカとテスカの戦いの途中で逃げ出していたオニトが、コノエたちの宿に帰ってきた。
全員の前ですべてを語ったとき、リリィは何一つ表情を見せること無く、自室に戻っていった。
その際、心配したコノエに告げた言葉に、オニトは肝を冷やした。
「大丈夫。ちゃんとマイカちゃんを捜してからにするよ。あいつらを全滅させるのは」




