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不安と安心ッッ!!

「仲間の元に帰るつもりか」


 黙るマイカに代わり、レンカが構えた。


「マイカ、下がって」


 無茶だ。戦って勝てる相手ではない。テスカの強さは身をもって知っているマイカだからこそ、レンカの覚悟に肝を冷やした。


「待って、お姉ちゃん」


 マイカはレンカの腕を引き、テスカを見つめた。


「私と一緒に来ませんか?」


「ちょ、マイカ! なに言ってんの? まさかこいつも、オニトみたいなタイプってこと?」


 テスカは何も答えず、ただ沈黙を貫いた。

 というより、答えを見いだせなかった。

 自分は強い。どんな環境でも生きられるだろう。が、絶対ではない。

 未だ生まれたばかりで知識が乏しい自分が未知なる世界に身を投じるより、ここでラズたちと暮らしていたほうが「安全」であり、絶対的に命が「保証」されている。

 

 テスカは、自信と不安の間で揺れていた。


「違う。お前が俺と一緒にいろ。お前が望むならもう人は食わん。ラズたちにも言って聞かせる。だから、俺の側にいてくれ」


 それでラズが言う通りにする確証など、ない。

 果たされるかわからない以上、この約束は前提からして成り立たない。


「テスカさん……」


 レンカがテスカを睨んだ。


「仲間になるなら受け入れる。でも、マイカは渡さない」


 迷いの末、テスカは耳障りなレンカの声に舌打ちした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドラゴノイドたちの体が溶けていく。

 まるで、はじめから氷像だったのだと錯覚してしまうほど、ドラゴノイドたちはドロリとした液体となり、死んだ。


 同時に、リリィが倒れた。

 負の感情を受け止めすぎたあまり、脳が、心が限界を超えてしまったのか。


「リリィ!」


 急いで駆け寄って、少しでも遠くへ移動させるために体を引きずる。

 と、鉄の塊が落ちてきたかのような悪寒が私の背中に冷や汗をかかせた。

 この悪寒の正体は、ラズだ。

 彼女が纏う邪気が、圧迫感が、決壊したダムのように周囲の者たちを飲み込んでいた。


「キサマ、なにをした」


 これにはガラブラも緊張に目を見開き、後ずさりした。


「コタエロ!!」


 ラズが駆け出す間際、ガラブラのピンチを助けるべく、部隊のリーダーがスモーク弾を投げつけた。


「失せろトカゲども!!」


 舞い上がった煙のおかげでラズは距離感を見誤り、ガラブラは彼女の突進を免れた。


「時間だ! 引き上げるぞ!」


 この陽動作戦の実行時間は30分であった。

 レンカたちがマイカを救出するには申し分ない時間。

 まだ戦闘を継続することもできるが、こちらの負傷者は少なくないし、城の中にはまだ複数ドラゴノイドがいると考えると、ここらが引き際であった。


「閃光弾!」


 リーダーの掛け声で、反射的に目をつむり、耳を手で塞いだ。

 その後、私はリリィを背負い、スモークの煙に乗じて走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ラズは人間の武器を熟知していた。

 故に閃光弾の意味も理解し、目と耳を塞ぐことで事なきを得た。

 そんな彼女でも、あのとき、ガラブラが同胞たちになにをしたのか、皆目検討がつかない。

 知らない薬か、魔法なのか。まったく予想すらできなかった。


「あいつら、殺す!」


 飛び出した瞬間、ラズは足元で気絶しているドラゴノイドに気づいた。

 もしかすると煙で見えないだけで、周囲の仲間たちは皆、閃光弾の餌食となっているのかもしれない。


 こんな状態で頭である自分がこの場を去ったら、目覚めた彼らは恐怖と動揺で統率が取れず逃げ出してしまうかもしれない。


「くそっ」


 優先すべきはドラゴノイドを守ること。

 ラズに芽生えた仲間への愛情が、戦闘を終わらせた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私たちはどうにか馬車に乗り込み、街への帰路についた。

 リリィはまだ目覚めない。


 私はまだ整わない息を深呼吸で無理やり抑えつけ、乾いた喉で同乗しているクローノに尋ねた。


「ま、まさか、アレが秘密兵器? 嘘じゃなかったんだ」


「言ったじゃろ。お主は気にせんでいい」


「なんなの? あれ?」


「……ワシから言えるのは一つ。アレは、この世で最も優しく、残酷な悪魔じゃ」


「?」


 さらに詳しく聞こうとしたとき、リリィが目覚めた。


「コノエちゃん……」


「リリィ、具合は?」


「ちょっと、ぼーっとする。戦いはどうなったの?」


「作戦時間終了で撤退」


「マイカちゃんは?」


「わからない。作戦が上手く行ったなら、レンカやオニトと一緒に宿で合流することになってるよ〜」


「そっか」


 リリィはホッと胸を撫で下ろした。


「みんな、あんなに頑張ったんだもん。きっと成功したよ」


「ま、ドラゴノイドのオニトがいれば、城で敵に見つかってもうまいこと切り抜けられるでしょ。あいつの演技力次第だけど」


「……ちょっと不安になってきたかも」


「私も〜。ふふ」


 地獄から抜け出したせいなのか、リリィが最後まで無事だったからか、私は妙に舞い上がっていた。

 マイカを助け出せたなら、リリィの復讐心も和らいでくれる。

 そしたら、無責任だけど、あとのことを大人たちに任せて、実家に帰ろう。

 少しでも早く、リリィと一緒に平和な世界に戻りたい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同じ頃。

 テスカの腕が、レンカの胸を貫いた。

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