再会ッッ!!
私たちは馬車で移動し、古城周辺の森に侵入した。
時刻は深夜3時。
これ以上は接近できないギリギリのラインで待機していると、大勢の武装した人たちが、足音も立てずに私たちを囲んだ。
迷彩柄の戦闘服を着て、数種の銃を装備した集団。ざっと20名はいるか、そのうちの一人がガラブラに近づいた。
「ガラブラさんですか?」
「あんたらが政府の捨て駒か。自警団のふりをして、ドラゴン殺しが公になったらすべての責任を負うとは、ご苦労なこった」
「歴史の裏のヒーローと呼んでくださいよ」
「ふっ、名前を持つことすら許されないくせに」
おそらく彼がこの部隊のリーダー。
両者が握手を交わすと、ガラブラが私たちの方を向いた。
「馬車で説明した通りだ。今回の目的はドラゴノイドとの接触及びマイカの救出。救出役はレンカと、オニト。それ以外のメンツは3チームに分かれる。第一陣、城内のドラゴノイドを外におびき出す第1チーム。そして出てきたドラゴノイドを挟み撃ちにする第2チームと第3チームだ」
その3チームで最も危険なのは、第一陣として戦闘を仕掛けるメンバーである。そこにはガラブラと、リーダーを含めた6名の兵士たち。
私とリリィは第2チーム、クローノとケイスは第3チームに別れ、それぞれ残りの兵士たちと戦いに参加する。
陽動作戦にさらに陽動を入れるとは、とことん念入りである。
それから30分程度待ち、ガラブラがみんなに告げた。
「そろそろ行くぞ」
隣にいるリリィをチラリと見る。
いまかいまかと前のめりになって、古城を睨んでいた。
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午前4時。眠っていたラズの耳に、爆発音が響いた。
「!?」
部下の報告によると、どうやら古城の門が意図的に爆発されたようである。
人間か。すでに複数のドラゴノイドが防衛に向かっている。
ヘイムがラズのもとに駆け寄ってきた。
「俺も行くか?」
「……そうだな。人間側の反撃、予想はしていたが、監視はなにをしていた」
「知らね。んじゃ行ってくるわ」
「……まったく」
結論を述べるなら、速やかに音もなく殺害された、である。
これまで弱者を捕食するばかりで平和ボケしていたドラゴノイドに、特にラズとは違う知能の低い一般的なドラゴノイドには、監視の任など到底務まらないわけだ。
銃声が多く聞こえてくる。
雄叫びや断末魔からするに、敵は決して少なくない。
ラズは一人になり、この不測の事態に思考を巡らせた。
なぜ、わざわざ正面から正々堂々と仕掛けてきた?
これでは奇襲の意味がない。どうせなら裏から城の敷地に侵入すべきだった。
もしくは、爆弾という手段があるなら大量の爆弾を投擲し城を崩す手もある。
これでは、下手をすれば城に入ることすら叶わず敗走する可能性がある。
人の大事な建造物だから? か、もしくは闇雲に攻撃できないか。
後者なら簡単に納得できる。マイカの救出が攻撃の肝だと察せるから。
ならば理屈が通る。あえて目立つ第一打。これを囮に別働隊が裏で動く。この作戦なら納得できる。
城内の戦力も温存しておくのがベストか。
と、ラズが判断した直後、部下が必死な顔で走ってきた。
「増援です!!」
「やはりな。どこからだ」
「せ、正門前!」
「は?」
正面の戦力を増した。これはラズには予想外であった。
「戦局は? 人間どもは手強いか?」
「手強いもなにも!」
部下の表情が語っている。おそらく、このまま手を打たなければドラゴノイドの死者は増えるばかりだ。
敵の意図がわからない。まだ自分が動くべきではない。
わかっているのに、理解しているのに、衝動が抑えきれない。
それはドラゴノイドの性による、人間に対する敵意のせいなのか、ドラゴノイドに優しい世界を作る決意によるものか。
「ちっ」
ラズは心のまま、足を動かした。
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数分前。
私とリリィは空に打ち上げられた閃光弾を合図に、部隊の兵士たちと森を駆けた。
その先ではすでに、第1チームのガラブラたちが、17体ほどのドラゴノイドと戦闘を繰り広げていた。
兵士たちの銃は、頑丈なドラゴノイドの鱗に穴すら開けられない。
が、
「訓練通り二人一組で戦え!」
部隊のリーダーの指示により、二人で一体のドラゴノイドに向けて乱射し、無数の銃弾でダメージを与え、内蔵や骨を損傷させ、結果的に死に至らしめることに成功している。
一方ガラブラは、岩をも砕くと自慢の拳を用い、たった一人でドラゴノイドと交戦している。
「ちっ、本当に硬えな」
などと文句を垂れつつも、持ち前の戦闘技術でドラゴノイドを殴り殺している。
だが、敵もそう易易とやられてはくれない。
ドラゴノイド特有の卓越した身体能力を駆使し、兵士たちを爪で斬り殺していた。
目の前で、次々と命が消えていく。
目を背けてしまいたい。でも、私は戦いにきたのだ。
震える手でハンドガンを握り、物陰から確実にドラゴノイドを撃っていく。
リリィはといえば、率先して前に出てステッキからビームを撃っている。
察知の魔法を使っているのか、四方八方から迫るドラゴノイドたちの攻撃をすべてかわしてみせている。
これならリリィは平気か? と素直に安堵もできない。なぜなら、
「うっ」
「リリィ、大丈夫?」
「……くっ」
ときおり、リリィは頭を抑える動作をしていた。頭痛なのか、理由はわからない。
「どうしたの? リリィ!?」
「悲鳴が、頭に入ってくる」
「悲鳴?」
そりゃあ、ここは戦場だから悲鳴はあちこちから聞こえてくる。
でも、頭に入ってくるとは?
考えていると、いつのまにかクローノが私の側に立っていた。
「あの子、長居は危険じゃな」
「え?」
「察知の魔法、人の心が読める魔法。そんなもの、ここで使ったら地獄じゃろう。不安、恐怖、闘争心、悲しみ、すべてが一斉に脳に伝わるんじゃから」
クローノは突撃してきたドラゴノイドを柔術で地面に叩きつけ、気絶させた。
たしかに、クローノの言うとおりだ。こんなところにいたら、リリィが壊れてしまう。
「リリィ! 一旦下がって!!」
そのとき、
「来た!」
リリィが正門を睨んだ。
直後、戦っていた兵士の首が突然撥ねられる。
夜より暗い漆黒のドラゴノイドが、戦場のど真ん中に降臨した。
「図に乗るなよ、人間ども」
リリィの顔が、鬼のように歪んだ。
「ラズ……」




